昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2017/07/21

純文学の老舗が日本のミステリーを出版した理由

 韓国での東野圭吾人気を不動にした『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を出版したのは、韓国で純文学の老舗として知られる「現代文学」社だ。主催する「現代文学賞」(1956年創設)は韓国でもっとも歴史の古い文学賞で「純文学の登竜門」。そんな同社がミステリー翻訳を手がけた経緯に関心が向いた。

 2006年に初めて『容疑者Xの献身』を翻訳・出版した時は、「やはり画期的な出来事といわれました」とキム・ヨンジョン「現代文学」代表理事が振り返った。

「当時編集部にいた私自身が『白夜行』などを拝読していて東野先生のファンでした。『容疑者Xの献身』は、内容はもちろん、タイトルの意味が読後に反転するのが面白くて、ぜひ出版したいと思いましたが、社内では、純文学の出版社なのに、と懐疑的な声も聞かれて‥‥‥。そこを、文学的でエンタテインメントとしても読める作品だと社を説得して翻訳にこぎ着けました」

『容疑者Xの献身』の韓国語版はこれまで50万部ほど売れたという。

「ともかく作品がすばらしい。『容疑者Xの献身』が韓国でもたくさんの人に読まれたこともあって、作家『東野圭吾』シリーズとして作品を出版したいと思い、それから続けて出版させていただいています」(同前)

 同社ではこれまで東野圭吾作品16冊の韓国語版を出版し、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は2012年に出版している。

「東野先生の作品のベースはヒューマニズムです。加害者であっても、何か罪を犯してしまった背景にも光を当てて、断罪していません。特にこの『ナミヤ雑貨店の奇蹟』はミステリーでありながら、人間的な温かみのある作品で、HPにある読者の書き込み欄には、『じいんとした』『気持ちが癒やされた作品だった』『私にもナミヤがあればよかった。こんな風に忠告してくれる人がほしい』といった感想が書きこまれていて、その年代も10代から50代までと幅広い。この作品が東野先生のファン層を広げたと思います」(同前)

「現代文学」社の海外部門では25%前後が日本の作品で、今年は『蜜蜂と遠雷』(恩田陸著)や『ムーンナイト・ダイバー』(天童荒太著)などを出版する予定だという。

現代文学社が翻訳、出版した東野圭吾作品16冊 ©hyundaemunhak

 日本の小説は今や韓国のどの出版社でも人気で、「会社全体の売り上げの半分が日本の小説の韓国語版という出版社も出てきています」(前出、大手書店関係者)。

『危険なビーナス』は6月30日から発売し、2週間で約2万部が売れていて、「『騎士団長殺し』はネットでの購入が多かったせいか『危険なビーナス』のほうが現場では手応えがあります」(同前)ともいう。

 それにしてもだ。

 大々的な村上春樹旋風や東野圭吾人気という、日本の大衆文化が禁止されていた頃には想像もできなかった韓国でのこうした日本文化の盛り上がりに、「隔世の感」という言葉では収まりきらないほど変貌した“時代”を感じて戸惑うこともある。

 それだけ、韓国社会が刻々と、目まぐるしい変化を遂げているということなのだろう。

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー