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小島秀夫が観た『ゴースト・イン・ザ・シェル』

ハリウッドという“シェル”に宿った“ゴースト”

2017/08/06

genre : エンタメ, 映画

2017年に生きる私たちは「ネットは広大だ」とはつぶやけない

 提示される「私とは誰か」という謎は、周到に張られた伏線が回収されると共に見事に解決され、そのことによるカタルシスも得られる。何より、個のアイデンティティの揺らぎを背負いながらも、爽快なアクションを演じるスカーレット・ヨハンソンの美しさを見るだけでも十分なくらいだ。私たちを120分間の非日常に連れて行き、未知の体験をさせてくれる満点のエンタテインメントと言っていい。しかし、映画館を出た私たちが、日常に戻るように、この映画の登場人物たちも、シェルにとどまる。ゴーストはシェルから抜け出さないのだ。コミックとアニメのラストで素子が「ネットは広大だわ」とつぶやいた、あの広がりはない。

 しかし、それはこの映画のせいではないだろう。

 2017年に生きる私たちは「ネットは広大だ」とはつぶやけない。1995年には、ネットはまだフロンティアだったが、もうそうではないことを私たちは知っている。スマートフォンを肌身離さず、個人とネットが常時接続している世界に生きている私たちにとって、ネットは広大ではない。ネットは新たな分断をつくり、新たな争いの種をつくり、拡散する。そこは個人を閉じ込める窮屈な場所になってしまっている。そのような状況にあって、新しい草薙素子のゴーストは、どこに宿るのか。その場所はどこか? 新しいシェルを探すためには、「私」という個人のアイデンティティが、個人のシェルに縮退せざるを得ない状況を描くしかなかったのだろう。

 その意味で、本作は通過点なのだ。ゴーストを描くことは、コミックやアニメが果敢に挑戦したように、「人間とは何か」という問題への挑戦なのだ。すでに世界(シェル)は閉じている。20世紀的な革命の夢(社会主義革命からホール・アース・カタログのヒッピー革命を経て、インターネットによる革命の夢)の挫折の後で、人間(ゴースト)は閉じた容器(シェル)に合わせて変わるしかないのか。本作はその問いの手前で立ちすくんでいる。閉じたシェルを壊し、新しいゴーストを解き放つためには、ブロックバスター映画というシェルの外に出なければならないのかもしれない。

© 2017 Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
INFORMATION
 

「ゴースト・イン・ザ・シェル」

ブルーレイ+DVD+ボーナスブルーレイセット(※初回限定生産)
価格:3,990円+税
発売・販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント

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