2017年5月20-21日のトランプ大統領のサウジアラビア訪問の直後の6月5日、全く前触れもなくサウジ、UAE、バーレーン、エジプトのアラブ4ヶ国を中心とする国々がカタールとの国交断絶を宣言し、国境封鎖と空域封鎖を実施した。すでに事態が発覚してから2ヶ月近く経つが、全く好転する兆しもなく、アメリカによる仲介も不発に終わっている(Tillerson Comes Up Short in Effort to Resolve Qatar Dispute. The New York Times)。

 そもそも、サウジら4ヶ国がいきなり国交を断絶したのは、彼らがテロ組織として非難するムスリム同胞団をカタールが支援し、イランとの関係を強めていることが原因だと言われている。サウジらは2013年と14年にカタールのタミム首長も署名した、湾岸協力会議(GCC)諸国やエジプト・イエメン国内の反体制派やテロ組織を支援しないことを約束するリヤド合意に違反したと主張している(Exclusive: The secret documents that help explain the Qatar crisisCNN)。これに対してカタールは正面から反対していないため、この合意の存在はカタールも認めていると思われるが、同時に、カタールはこの合意をもって国交断絶するのは主権侵害の行為であると批判している(Sheikh Tamim: Any talks must respect Qatar sovereigntyAl Jazeera)。

陸地で国境を接しているのはサウジのみ。ペルシャ湾の対岸にはイラン ©iStock.com

トランプ外交の目玉によって大きな影響が

 しかし、なんと言っても一番大きな影響があったのは、トランプ大統領のサウジアラビア訪問であろう(The Real Impact of Trump’s Foreign Trips Happens After He LeavesBloomberg)。ここでトランプ大統領はスンニ派アラブ諸国を中心に55ヶ国の首脳を集めた「米アラブ・イスラム・サミット」に出席し、テロとの戦いを前面に出した力強い演説をした。また、サウジとの二国間協議では1100億ドル(約12兆円)相当の武器輸出の取り決めをまとめ、サウジへの強い支援を示した。これはオバマ前大統領がサウジの求めに反してイランとの核合意を優先し、GCC諸国をないがしろにした外交を批判し、トランプ外交の目玉として中東での独自の政策を目指したものと考えられる。また、サウジらがカタールのテロ組織への支援に関する情報を伝えた際、アラブ諸国によるテロの撲滅に向けた活動を評価したとも言われている(「カタールが過激派に資金提供、アラブ首脳警告=トランプ氏ロイター)。

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 また、今回の国交断絶はメディアを巻き込んだ大規模なものになっている。カタールには中東初の衛星放送局であるアルジャジーラがあり、アラブ諸国の中では信頼感のある報道の自由があったが、5月の末に何者かによってカタール国営メディアのサイトで、カタールのタミム首長がイランとの関係改善を訴えているとの情報が流された。カタールはこれはハッキングの仕業でフェイクニュースだとして事実無根と言い張ったが(Hack, fake story expose real tensions between Qatar, Gulf. AP)、湾岸諸国の間に緊張が高まった。その後、サウジ、エジプトメディアとカタールメディアの間で真偽不明の情報が飛び交い、互いに誹謗中傷しあう関係となってしまった。ワシントンポストはアメリカ政府関係者の話として、カタールのメディアをハックしたのはUAEであると伝えており(UAE orchestrated hacking of Qatari government sites, sparking regional upheaval, according to U.S. intelligence officialsThe Washington Post)、また、カタールも同じように見ていることから(Qatar denies being hacked by Russia, accuses Gulf countries of cyberattackCBS News)、カタールも引き下がることが出来ない状況にある。