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酒好き店主の天ぷら&名物・麦きり

 左党ならば、観光の合間にも一杯といきたいだろうから、この人に任せておけば絶対に楽しい、という主の店をラストに一軒。高倉通六角の『天ぷら割烹なかじん』。

 店主・中村一臣さんは、ビール、ワイン、日本酒、焼酎と何でも来いで、マリアージュだけでなく「この日本酒はロックがおすすめですよ〜」と呑み方の提案もしてくれる。

 実は中村さん、以前は蕎麦屋を営んでいた。私が初めてお会いしたのは、90年代の後半。関西ではまだ手打ち蕎麦が少なかった頃で、石臼で蕎麦粉を挽き、十割で打っていた。とにかく凝り性で、当時から天ぷらにも定評があり、酒にも詳しかった。訳あって蕎麦が打てなくなった後、天ぷら割烹を開いたのが8年前だ。

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 その培ってきたものすべてが、昼でもコースで味わえる。前菜盛り合わせは、南蛮漬けや蒸し鶏など細やかに手がかけられた品が5種ほど。夜は通称「アフロ」と呼ばれるかき揚げなど度肝を抜くような創作性を楽しめる天ぷらだが、昼は直球勝負で、車エビや万願寺唐辛子や賀茂ナスなど旬の野菜を次々と揚げてくれる。

京都らしい「生麩」の天ぷら

 京都らしいのは、生麩。カリッとした衣の中にむにゅっとした麩の食感、そのコントラストが痛快だ。ほんのりレアな火入れの、丹波地鶏の胸肉揚げも忘れられない。噛めばぶわっと旨みが広がり、胸肉の底力が存分に引き出されていた。

 締めは天丼か天茶。と、その前に。となるが、中村さんのコースの真骨頂が登場する。元蕎麦の名手が編み出した名物「麦きり」。北海道産の小麦とデュラムセモリナ粉を使った全粒粉の麺で、イギリス産の海塩でいけば華やかな風味が一層際立ち、瞠目必至だ。アイス最中やあんみつなど4種から選べる自家製の甘味で締めるこの「月」コースが3990円。ものすごくお得だと思うのは私だけではあるまい。

天ぷら屋なのに締めは「麦きり」

 と、ここまで書いて、は! とした。しまった、この連載、タイトルは「京都、和食じゃない美味い店」だった。最初のカラシソバは別として、豆腐料理に寿司、天ぷら。バリバリ和食やないの。いやいや、京都の昼というテーマなので、仕方あるまい。割烹や料亭などの日本料理店を断腸の思いで外したので……お許しを。

京都のランチはこれ一冊で

 え? それこそ知りたい? ならば、MOOK「京都 昼の100選」をご購入くださいまし。日本料理はもちろんのこと、イタリアンにフレンチ、ラーメンに加え、漬け物や和菓子など土産になる名品の情報まで含めて計100軒。甘味どころ5軒も特別に収録している。コンパクトな四六判で、1000円也。この連載もあって京都通いをする私のカバンには常にこの本が入っている。

中本由美子
「あまから手帖」4代目編集長。1970年生まれ、名古屋育ち。青山学院大学経済学部を卒業後、「旭屋出版」にて飲食店専門誌を編集。1997年、(株)クリエテ関西に転職。「あまから手帖」編集部に在籍する。2001年フリーランスに。「小宿あそび」「なにわ野菜割烹指南」などのMOOK・書籍を担当後、2010年、「あまから手帖」編集長となる。

あまから手帖
1984年創刊。関西の“大人の愉しい食マガジン”として、飲食店情報を軸に、食の雑学、クッキングなど関西の“旨いもん”を広く紹介する月刊誌。最新号は8月号「上方の鰻 天ぷら 蕎麦」。7月3日発売のMOOK「京都 昼の100選」も好評発売中。