「あまから手帖」といえば関西のグルメ雑誌の老舗で、舌の肥えた読者で知られる。その編集長が教える京都の楽しみ方。しかも今回は和食だけじゃない、京都にあるほんとうに美味しい店をご紹介。第3回は観光客が知らないランチの名店紹介。
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観光客はきっと知らない祇園・昼の穴場
昨今、京都の人出、えらいこっちゃです。先日、午前中に祇園で打ち合わせがあって、川端通から八坂さんに向かって歩き始めて絶句。道路の両サイド、歩道がみっちり観光客で埋まっていた。巨人戦終わりの阪神甲子園駅かっ! と突っ込みたくなるほどに、人、人、人の大渋滞。いや、参った。
取材が終わり、ちょうどお昼どき。何か食べて帰ろかな……と、鯖寿司といえばの『いづう』へ。ハイ、行列。京風うどんの『おかる』、さらに大行列。葛きりで小腹を満たすか……と向かった『鍵善良房』、満席。うーん、どないしょ……と思ったその時、ピン! と閃いた。さすがにココは地元の人しか知るまいと、入り込んだのは富永町通りのビルの隙間。広東料理の『平安』は1卓だけ空いていた。エライぞ、アタシと自画自賛でニヤけつつ、名物カラシソバを注文。
「中高大、どれにしましょ?」。毎度の台詞は、量のことでなく、辛さの具合。中学生は子どもすぎるので、私は大抵高校生で。大学生には手を出したことはないが、結構手強い辛みらしい。その辛子はマスタードで、あらかじめ中華麺に絡めてある。これをラーメン鉢に入れ、魚介と鶏、筍、キクラゲ、レタスの入ったあんをかけて出来上がり。ゆえに、下からしっかりと混ぜないと、最後が辛い!
いい塩梅にかき混ぜてすすり上げれば、刺激ある旨みが猛然と襲いかかってくる。俄然ビールを呼ぶのだが、この日は仕事中につき……。ここはぜひ休日に、数人で訪れてほしい。その際は、春巻やシュウマイも必ず追加されたし。京都らしい、はんなり優しくて懐かしい味にほっこりし、街の喧噪が遠くに感じられるはずだ。
祇園祭も終わり、街の混雑も一段落か……と思いきや、それがそんなワケにはいかないのが京都。七夕祭に五山の送り火、川床の愉しみもあって、夏は夏で大賑わいだ。秋ともなると行楽客がさらに増え、紅葉の頃はまさにピーク。昼ご飯難民になるリスクも高くなる。そんな時、この一冊が頼りになるはずだ。ちょっと宣伝をさせていただくと、「あまから手帖」から7月3日にMOOK「京都 昼の100選」が出た。前述の『平安』も載っている。今回は、この一冊から夏にオススメの昼ご飯どころをご紹介したい。
昔づくりの湯豆腐店の、冷や奴がいい
京都に来たらやっぱり湯豆腐を食べてみたい。そんな時は、二年坂の『奥丹清水』へ。
数寄屋造りの座敷で、日本庭園を愛でつつ、風情たっぷりに豆腐料理が味わえる。「おきまり一通り」が定番で、湯豆腐に精進天ぷらや木の芽田楽、とろろ汁、ゴマ豆腐が付いて3000円。自家製木綿豆腐を使うこちらもいいが、私の押しは「昔どうふ一通り」4000円。滋賀県の契約農家で栽培した大豆と、比良山麓の地下水、天然にがりでちょいと硬めに作られている昔どうふは、豆の甘みが力強く、素朴な滋味がある。
いやいや夏に湯豆腐は……というお連れがいたらば、夏季限定の「冷奴一通り」3000円を薦められたし。こちらは、やらかくて滑らかな木綿豆腐。ガラス鉢から掬い上げると氷がカランと鳴ったりして、涼味豊かだ。カツオの風味がガツンと利いた秘伝のタレがまた旨く、猛暑の日、食欲が……ってな時でも、するりと腹に収まる。