「あまから手帖」といえば関西のグルメ雑誌の老舗で、舌の肥えた読者で知られる。その編集長が教える京都の楽しみ方。しかも今回は和食だけじゃない、京都にあるほんとうに美味しい店をご紹介。第1回は「肉」、牛肉のうまい店だ。

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京都人は日本一の牛肉好き

 私は大阪在住なので、京都は“わざわざ行く”とこだ。「あまから手帖」の取材で20年間、なんやかんや週1くらいのペースで通っているけれど、京都の食を内側から見ることはない。常に外から見ている。つまりそれは、最も近いとこ(大阪)から行く観光客の目線に近いのだろうと思う。このコラムでは、その視点で京都の美味いもんを書いてみる。

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 京都に何か食べに行こか、となると、当然“らしい”ものを考える。それは日本料理かと言えば、そうでもない。距離の近さは心理的にもそうで、「今、食べとかな」と思えるものがあれば小1時間、電車に乗る。ここ数年でいえば、その筆頭は肉だった。ちなみに、関西で肉といえば牛肉。豚でも鶏でもなく、断じてビーフだ。トンカツよりビフカツ、肉じゃがも牛のこま切れである。 

 平成25~27年の家計調査の平均で、京都市の牛肉への年間支出額は3万8505円。堂々の全国第1位である。京都人は日本一の牛肉好きなのだ。というデータを挙げるまでもなく、「あまから手帖」を編んでいれば分かる。ビーフ特集を組む時、お店探しに一番困らないのは京都。なんぼでもある、のだ。

 例えば、しゃぶしゃぶ発祥の店といえば、祇園の『十二段家』。ここのゴマダレ、さらりと上品で美味しい。すき焼きといえば寺町三条の『三嶋亭』で、オイル焼きも有名だ。炙りから照り焼きといろいろ食べたい向きには、御所南に本店、聖護院に支店のある『肉専科はふう』。ビール片手にホルモン三昧なら、西陣の『江畑』、市内に3店舗ほどある『アジェ』。浮気しない京都の肉好きの間では必ず名前の挙がる、いずれも名店ばかりだ。

すき焼きで有名、140年の歴史を誇る寺町三条の『三嶋亭』

 牛食のバリエーションはまだまだあるけれど、ここ数年ならば間違いなくステーキということになるだろう。「あまから手帖」でも、3年の間に特集を2度組んだ。まずは2013年9月号、タイトルは「焼く、牛肉」。肉を焼くというシンプルな調理に新しいスタイルが出て来たぞ、というタイミングだった。

担当編集者が「悶絶の美味さでした!」と報告

 烏丸御池『オステリア・イル・カント・デル・マッジョ』のビステッカは、「今、食べとかな」とセンサーが働き、特集を編むきっかけとなった一皿だ。イタリアのTボーンステーキで、ガリッと焼き上げた表面の香ばしさが、まず鮮烈。中心部は思い切ったレアだ。赤身をガシュッと噛み締めた後、じわじわじわ〜っと口中に満ちる肉の野性。初めて食べた夜、胃袋を鷲掴みにされ、以来、京都でビステッカといえば、このイタリアンとなった。

 特集「焼く、牛肉」では、ビステッカを主に構成をと考えていたが、そこに待ったをかけたのが、一軒のビストロのステックフリット(ステーキとポテトフライ)。河原町丸太町の『le14e(ル・キャトーズィエム)』の茂野眞シェフは、パリの『ル・セヴェロ』で研鑽、身体で覚えた赤身熟成のステーキを東京のワインバー『祥瑞』で披露し、熱狂的な支持を得た。あぁ、あのシェフかと膝を打つグルマンも少なくないだろう。そのシェフが、2013年、京都にやって来た。フライパンにたっぷりの油を入れ、揚げ焼きする熟成肉のウワサは関西中を駆け巡った。取材を終えた編集者が、上気した顔で「悶絶の美味さでした!」と報告してきたのを覚えている。