面白いことを拡げることが大事
だからこそ、今までのようにGDPの数値だけを見て経済の活力があるかどうかを判断しないほうがいいのです。むしろ、変化の兆しを逃さずに若い世代の良いところを見出すことで、「面白い」「変わってきた」と言い始めることが重要なのです。
現在は高齢化ばかりにスポットライトが当たりますが、そもそも物事にはダークサイドとブライトサイドがあります。明るいところにいる者ならば、面白いことをどんどん指摘して、拡げていくことが必要なのです。
それには、「何事も捨てたもんじゃない」と思うことが重要です。とくに20代は、面白いベンチャーをたくさんやり始めているし、それを支援する資金も出るようになってきました。大企業をすぐに辞めて、ベンチャーに行く人も増加傾向にあります。こうした動きは、非常にいい傾向なんです。そうした社会の変化を見ていると、私も日本の将来は大丈夫だと確信することができるのです。
これからの問題は、そうした動きをいかに政策的に醸成させていくかということです。何かを始める人たちを応援する。大企業に行かなくてもいい。そうやって若者を支援していくことができれば、これからも日本は生き残ることができるのです。
若い人たちが自分でリスクを取り始めている
例えば、私が注目しているベンチャーは、ロボット分野です。とくに介護ロボットなど社会的に意味のあるものこそ、ベンチャーや中小企業にやってほしいのです。
日本のベンチャーがアメリカのそれと違うところは、お金よりも、社会的に意味があるからやるという考え方です。そう考えて、実際に取り組んでいる人たちは本当に尊敬します。昔は能力があるなら、大企業に入れば良かったけれど、今は大企業から出て行って、自分で物事を動かしていく人になったほうがいいのです。
その意味で、今の日本は人材をうまく活用していないと感じています。大きな組織で何年も待って好きなことができるのかどうか悩んでいるのなら、自分でやってしまえばいいのです。実際、若い人たちは自分でリスクを取り始めています。私たちの世代ではできなかったことを、今の世代はやろうとしているんです。
私たちの世代は、人材の流動化もなかったし、ベンチャーに投資されることもありませんでした。ところが今はリスクマネーがベンチャーに集まるようになった。しかもベンチャー自体が社会的に受け入れられるようになってきています。新しいことをやろうとすることを社会が受け入れるようになってきた。私は、それは良い兆候だと思います。
失敗を尊重する社会にしよう
現代は失敗ができる世の中になりつつあるのです。もちろんビジネスで失敗したことを自慢できるような社会になったとはまだ言えません。しかし、失敗したことが活かされるようになるだろうとは考えています。あと5年も経てば失敗事例がたくさん出てきて、失敗した人のほうが面白いじゃないかという社会になってくるはずです。
「失敗したから、あいつはけしからん」という考えは、むしろ「あいつはチャレンジしたんだよな」と、これから変わっていくでしょう。実際にこれだけ起業している人が増えていれば、失敗は必ず起こってきます。でも、社会に迷惑をかけない失敗だったらいいのではないか。
中小企業にも今、すごく良い会社がたくさんあります。そこにもっと優秀な人材が行くようになれば、社会はもっと大きく変わっていくはずです。
聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)
新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長
1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。