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新浪剛史の教え#10「経営者はいつも不安と付き合わなければならない職業」

私はこう考える――新浪流・乱世を生き残るための教科書

2017/08/15
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 三菱商事、ソデックス、ローソン、サントリー……。私は社会人になってからこれまで、商社、外食、小売り、製造業と、さまざまな場所で仕事をしてきました。私がそこで何を考え、なぜ挑戦し続けることができたのか。現在までのキャリアの中から、本当に役立つエッセンスをこれからお話ししたいと思います。

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経営者という世界

 なぜ私は経営者たりうるのか。正直、私自身わかりません。私は一見、体格もよく、自信家のように見られますが、確固たる自信なんてないのです。この世には自分より頭のいい人が一杯いると思うし、明日になったら駄目になっているかもしれないといつも不安に思っています。

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 経営者はいつも不安と付き合わなければならない職業です。不安と付き合うからこそ、努力をします。業績に対しても不安だし、自分自身が成長しているかどうかも不安です。年も取ったし、勉強しても、あれもこれも理解しなきゃ駄目だと焦るんです。あっという間にもう60歳近くになりました。もう焦りまくります。

いつも自分が嫌いになる

 だから、いつも自分が嫌いになるんです。なんでこんなに駄目なんだろうかと。でも、脳みそには限界がある。例えば、夜9時半と早めに家に帰っても、読まなければいけない書類や資料がたくさんあります。それらを11時半過ぎまで読んで、世界で何が起こっているかを頭の中で整理し、ふと目の前を見ると、まだ資料はたくさん溜まっている。

 すごく慌てるわけです。世の中は、読み終わる前にもう変わっているんじゃないかと。毎日、フィナンシャルタイムズもどんどん溜まってしまうし、記事を読んでいる途中に電話がかかってきたり、車の中で読んでいると疲れてしまう。理解力が足りないのか、記憶力がないのか。もう常に自分が腹立たしいのです。

 確かにやることをやれば少しは安心してきます。でも、出張して海外から帰ると、次の日は朝8時から会合が入っているというスケジュールです。それまでに頭をきちんと整理しておかなければなりません。経済財政諮問会議では、意見を必ず発表します。そのために政策、社会保障の勉強をして、いろんなことを考えます。

 経営者は常にテンションを高く持っていなければなりません。そうすると、やっぱり頭が疲れてしまう。そこに情報を入れるのは、自分でも生産性が悪いと思います。でも、追い込まないとやらないから、常に自分を追い込んでいるんです。

サントリー大学グローバルリーダーシップフォーラムにて

自分を追い込まないと、テンションは保てない

 一方で今は昔と違って、必ず休みを取るようにはしています。夏と冬にはハワイに行きます。それが楽しみです。アメリカはとくに人のことをあまり気にしませんから、こちらも気にしないでいい。アメリカは、周囲に気を使わないで自分の意思を押し通して生活できる社会です。日本も大好きですが、それはそれでまたいいものです。

 経営者を約20年やってきましたが、時間の使い方は自分で決めることができます。時間をつくり、なるべくジムに行くようにしています。ジムに行っているときは、少なくとも仕事のことを忘れることができるからです。

 仕事を忘れるためにエクササイズをしながら、わざと追い込むんです。自分ではきつくて追い込めないので、インストラクターを付けてもらっています。励ましてもらいながら、追い込むと仕事を完全に忘れられます。そうしなければ自分自身の体がもたないのです。そういう切り替えを週2回必ず1時間半ぐらい時間を取ってやっています。

 自分を追い込んでいかないと、テンションは保てない。どこかでやめてしまうと、駄目になってしまう。そう思いながら社長を約20年やってきたような気がします。

聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)

新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長

1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。

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