毎日の仕事に疲れた人たちにとって、通勤や昼休みのひとときの時間潰しになれれば。
それが、本連載で筆者が最も心がけていることだ。そのために参考にしているのが、竹内力主演のVシネマ『難波金融伝 ミナミの帝王』だ。
全六十作のシリーズには凝った映像表現はないし、展開もワンパターンだから、「読解」に頭を働かせる必要がない。ただ、それだけだとあまりに刺激に欠け過ぎるので、時おり少しばかりの「毒」や「陰」や「笑」をまぶす――。この「ミナミの帝王」の基本フォーマットは「疲れた時の時間潰し」用の娯楽にはピッタリで、それがそのまま本連載の基本形になっているのだ。
そこで、通算二五〇回目の今回はシリーズの劇場版第五作『甘い罠』を取り上げる。
本作を含め、物語展開はシリーズ通してほぼ全て同じだ。大阪はミナミで高利貸しを営む主人公・萬田銀次郎(力)から止むに止まれぬ事情で金を借りた善良な人間が、今度は悪徳業者に騙されて泥沼に陥る。借金回収のため銀次郎は依頼人を助け、度胸と法律の知識を駆使した弁舌で悪徳業者を相手に立ち向かっていく。
ワンパターンでもこのシリーズを飽きずに毎回観ることができるのは、作品ごとにちょっとしたスパイスが的確に効いているからだ。それが激しくなり過ぎない心地よい刺激として、観る側に新鮮な喜びを与えてくれるのである。
そして、多くの作品でその「スパイス」の役割を果たしているのが、ゲストとして登場する「往年の名優」たちだ。本作には川谷拓三と夏八木勲が重要な役柄で出演している。
川谷が演じるのは悪徳業者の社長・奥村。当初は銀次郎に問い詰められてもニヤニヤするだけで「柳に風」でやり過ごしていたのが、最後に逆襲を食らうと一転。茫然とした表情で身体を揺らしながら、薄くなった額に振り乱した頭髪を張りつかせ、泣きそうな声で「この腐れ外道――!」と凄むのが精いっぱいという、見事なまでに惨めな負けっぷりを全身で表現してのけた。
一方の夏八木は、銀次郎の金主・斉田を演じる。高級料亭に和服で現れ、てっちりを食べながら銀次郎の策の浅さを見抜いて笑い飛ばす――そんな、銀次郎が遥かに及ばない大物としての貫禄をみなぎらせ、存在感で圧倒していた。
川谷のペーソス、夏八木の重厚感。往時と変わらぬ名優の「さすがの芝居」が「いつもの展開」の物語に情感と奥行きを与えているため、気づけばアッという間に楽しく時間が過ぎる。贅沢な暇潰しだ。
長く続けていくためには、名優が頼りになる――。それもまた、本連載が「ミナミの帝王」から受けた影響である。