共演者にも愛される人柄
「彼は作品を作り上げる中で、自分がどう立ち回るべきなのかをしっかり考えることができるんです。舞台での松下くんの役は犬の“ハチ”だったのですが、その年代の男の子って、犬の役なんか与えられたら少しはプライドが邪魔するじゃないですか。でも松下くんはそんな様子は見せず、役をもらった瞬間から最後までずっと“ハチ”でした。
それに、彼は愛され上手なんですよね。犬なので髪をアフロっぽくふわふわにしていたのですが、みんな吸い寄せられるように松下くんの頭を撫でに行くんです。稽古が始まる前にひと撫で、休憩中にひと撫で、みたいな(笑)。親御さんの育て方が良いってこういうことかと思いました」
ブレイク前夜には、「スカーレット」で八郎の義母を演じるベテラン女優を前に堂々たる演技をみせている。2018年の舞台「母と暮せば」で脚本を担当した畑澤聖悟氏が振り返る。
「長崎で被爆した母と、戦争で亡くなった息子の幽霊の交流を描いた2人芝居なのですが、母親役が富田靖子さん(50)で、息子役が松下さんでした。松下さんが富田さんに『僕ね……』と語りかける直前の、台詞のない、眼差しだけの演技がとにかく良いんです。戦時中という難しい時代設定ながら、母を想う息子を見事に演じていました。素晴らしいの一言でしたよ。演技にも表れていますが、松下さんは人柄が素晴らしくて、富田さんにも可愛がられているようでした」
受賞後には直筆の丁寧な手紙を
18歳上の女優とも難なくコミュニケーションを取り、2人芝居を演じきった松下。この時の演技が評価され、2019年2月に同作で顕著な活躍した新人に贈られる読売演劇大賞『杉村春子賞』を受賞している。
「受賞は松下さんの実力以外の何物でもないのですが、受賞後、直筆ですごく丁寧な手紙をくれたんです。『本当に素晴らしい作品に出させていただきありがとうございました』と。『スカーレット』の八郎もそうですが、松下さんも古風で実直な男なんですよ」(前出・畑澤聖悟氏)
久しぶりの八郎の登場によって展開に注目が集まる「スカーレット」。女性たちの手ほどきによって開花した俳優・松下は、喜美子とともに生きていくであろう八郎を、どう演じていくのだろうか。