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 自動車産業にとって最も怖いのは「過剰設備」である。自動車の工場は巨大な設備投資を行い、多くの人員を抱える。負のスパイラルに入れば、稼働していない従業員に給料を払い続けなければならず、その他もろもろの莫大な固定費ものしかかってくる。その結果、会社の収益構造はあっという間に蝕まれる。この負のスパイラルを断ち切るためにも、人員削減と工場閉鎖の「荒療治」は不可欠だ。目の前の痛みを避けようとすれば、船ごと全員が沈没しかねない。

 中国における新型コロナウィルスによる肺炎の影響で、依存度が高かった中国事業の先行きにも暗雲が立ち込める。今後は、長期間生産が止まる最悪のシナリオを想定した対策も求められる。

内田社長が改革に踏み出せないワケ

 第3・四半期の決算と同時に発表された2020年3月期決算の通期見通しは、昨年11月時点での見通しと比べて、売上高は3・6%減の10兆2000億円、営業利益が3・8%減の850億円、最終利益が40・9%増の650億円だ。

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 この数字をみて、「何とか黒字を維持できた」と評価するのは大間違いだ。この数字の中には、上積みすべきリストラ費用も、新型コロナウィルスによる事業中断の影響も織り込まれていないからだ。

アシュワニ・グプタCOO ©AFLO

 実際、日産内部には、内田氏の判断に反対する勢力もある。彼らは「いま、リストラにかかる数千億円の特別損失を積んで、いったんは巨額の赤字に落として、そこから反転攻勢を目指すべき」と主張しているようだ。関係者によると、ナンバー2のアシュワニ・グプタCOOはこうした考えを持っているという。社内の一部には相当な危機感があることは事実だ。

 しかし、内田社長の覚悟がなかなか定まらない。この感覚の違いから、内田氏とグプタ氏の間には、早くもすきま風が吹き始めているという。

「時間をかけなければ何も決められない」

 決算発表の記者会見で内田社長は「覚悟をもって経営に臨んでいる」、「捨てなければいけないものもある」などと語り、リストラを推進する姿勢を示したが、一方で「じっくり時間をかけて議論して5月には一歩踏み込んだ固定費削減策を説明する」とも答えており、スピード感に欠けるきらいがある。

 日産のある幹部はこう不満を漏らす。

日産本社 ©AFLO

「追加で削減すべき人員数もリストラすべき工場や拠点もほぼ決まっています。いますぐ決断して特損を積み、2019年度中に負の遺産を処理してしまい、2021年度からの反転を目指すべき。ところが、内田社長に決断を求めても、『I am studying』とばかりに、何も決めないのです」

 内田社長は紳士的で勉強熱心と言われる。だが、その反面、「時間をかけなければ何も決められない」といった批判の声も社内からは強く出ており、その性格が今の局面では裏目に出ているように感じる。

 内田氏が一歩踏み込んだ改革に素早く取り組めないのは、性格面の問題だけではない。退職慰労金の問題も関与していると見られる。