ある日産関係者が語る。
「内田を役員に引き上げたのは、前暫定CEOの山内康裕ですが、2月18日の臨時株主総会で取締役を退任するに当たり、山内の退職慰労金を2倍に引き上げる調整をしていました。山内もそれを求めたようです」
もし、10~12月期決算で特損を積んで巨額赤字にすれば、株主に対して、旧経営陣に退職慰労金を倍増させることは説明がつかなくなる。そのため、この関係者に限らず、日産内部からも「山内さんを優遇するために、今回は処理を先延ばしにしたのではないか」といった見方も浮上している。こんな調子では昨年12月に発足した新体制の下、社内を一枚岩にして改革に進むことはできないだろう。
大胆かつ素早い改革なしでは、日産・ルノー・三菱自動車の三社連合自体が負け組に転落し、業界再編の渦に呑み込まれてしまいかねない状況にある。
ゴーンに対する100億円の損害賠償
一方で日産は、もう一つの「負の遺産」に関しては、断固整理する行動に打って出た。これは予想されていたことではあるが、2月12日、ゴーン被告の一連の不正行為に関して100億円の損害賠償を求める民事裁判を横浜地裁で起こしたのだ。
日産は昨年9月、社内調査の結果、ゴーン被告による不正によって総額350億円の被害を受けたと発表している。今回の100億円の賠償請求は、その350億円の損害の一部で、レバノンやブラジルの豪邸を取得するにあたって、日産の資金を不正流用したことや、コーポレートジェット機を私的に使用したことなどに対する賠償だ。
ゴーン被告は国外に不法出国したため、日本で刑事裁判が開かれる可能性はほとんどないが、民事裁判は手続き的に可能だ。海外にいても訴状を被告側に渡すことができ、被告が出廷しなくても裁判を開くことができるという。
日産は民事訴訟で勝つことで、ゴーン被告が保有している海外のドル預金口座を凍結させ、ゴーン被告の勝手な動きを封じる狙いもあると見られる。
影の主役はキャロル夫人だった
日産関係者によれば、海外の豪邸取得に関して、東京地検特捜部は当初、特別背任容疑で立件しようとしていたという。しかし、「サウジアラビアルート」「オマーンルート」といった中東を舞台にした不正な資金の流れを把握できたため、特捜部のターゲットはそちらに移ったようだ。
この中東を舞台にした特別背任事件の影の主役は、実はゴーン被告の妻であるキャロル容疑者だった。キャロル容疑者は、ゴーン氏に代わって特別背任の事件関係者とやり取りしていたのに、特捜部に対して「知らない」と証言していた。このためゴーン氏逃亡のあと、偽証の疑いで国際手配されている。
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「文藝春秋」3月号および「文藝春秋 電子版」に掲載した「指名手配された『ゴーン妻』の正体」では、ゴーン被告がキャロル容疑者と再婚してから、風貌も行動も変わって行ったようすや、「悪事」が加速していったことをくわしくレポートしている。
ゴーン事件は、「事件の陰に女あり」という格言がぴったり当てはまるのだ。
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指名手配された「ゴーン妻」の正体
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