日産自動車の内田誠社長兼CEOがいま、過去との決別と未来への覚悟の狭間で大きく揺れている。

 前会長のカルロス・ゴーン被告が収益を無視した拡大戦略をとった結果生じた過剰な設備と人員を、どう整理するかといった深刻な経営課題に直面しているのだ。

最終損益は260億円の赤字となった

 2月13日に日産が発表した2019年10~12月期(第3・四半期)決算では、本業のもうけを示す営業利益が前年同期比78%減の227億円、最終損益が前年同期の704億円の黒字から260億円の赤字となった。第3・四半期で赤字に陥るのは、リーマンショック以来11年ぶりだ。

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 営業減益となったのは、世界の全地域で販売が落ちたことが主要因。そこに特別損失が194億円(前年同期比98億円増)発生したことで最終赤字に転落した。

内田誠社長兼CEO ©AFLO

 本来、企業が反転再生のために、固定資産の減損処理などリストラ費用として引当金を積んで特別損失を計上することは、悪い選択ではない。

 日産の場合、問題はその中身だ。今回計上した特別損失の多くは、ルノー株の減損処理によるもの。ルノーは14日、2019年12月期決算を発表、日本円で168億円の最終赤字に転落した。ルノーが赤字となるのは10年ぶりのことだ。日産はルノーに15%出資しているが、ルノーの業績悪化に伴い保有株の減損処理をしたというわけだ。つまり、特別損失を計上したといっても、思い切って過去をリセットする、いわば「膿出し」のための対応ではないのだ。

生産能力の約3割が余っている

 筆者はこの点については大きな問題があると感じている。結論からいえば、早急に人員削減や工場閉鎖などの巨額のリストラ費用の特損を積み、巨額の最終赤字に落とすべきだ。筆者の推測では3000億円~5000億円程度の最終赤字に落とさなければ、反転はない。これは皮肉なことに、ゴーン氏が1999年の来日当初に行った「リバイバルプラン」で、リストラ費用を巨額の特損として計上し、翌年から日産の業績を反転させた発想と同じだ。

カルロス・ゴーン氏 ©文藝春秋

 日産の2019年度の年間を通じての販売見通しは505万台程度と、前年度比で8・4%落ち込む。それに対してグローバルでみると生産能力は700万台程度あると見られ、稼働率は7割程度だ。ざっと見て約3割の生産能力が余っている。2020年度も大幅に販売台数が増える見通しは今のところ立っていない。

 このため、昨年7月にグローバルで従業員全体の10%程度に相当する1万2500人の人員削減計画を発表しているが、今の稼働状況では、さらに削減をしなければ追いつかないだろう。また、日産は昨年、インドネシアやインドでの生産能力を削減する方針を発表しているが、追加で工場閉鎖など「荒療治」が必要な局面となっている。いま大掛かりな「外科手術」をしておかなければ将来に大きな禍根を残すことになる。だが、内田社長は決断できなかったようだ。