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 相掛かり戦法は互いに角道を開けずに飛車の前の歩をズンズンと伸ばす形。飛車の行動範囲が広いため活用しやすい。棒銀は相掛かり戦法の代表的な攻めの形だ。江戸時代から指される伝統のある戦法だが、その幅の広さから定跡化が遅れてきたが、ここ最近は将棋AIの影響もあって定跡化が進んでいる。そして角換わりや横歩取りといった他の戦法のエッセンスを必要とされるため、指しこなすのが難しい戦法となりつつある。

 そんな中、本田五段はプロ入り前から相掛かりを磨き上げて自らの「棋風」として、スターへの階段を駆け上がっている。

 棋王戦五番勝負開幕前に筆者が本田五段と話したとき、「東郷神社に行きたい」と漏らしていた。東郷神社は第4局の対局会場だ。なんとしても3連敗は避けたいというのは渡辺三冠を相手にした本田五段の偽らざる本音だっただろう。第1局は完敗だったが、16日に行われた第2局では武器である相掛かりで完勝し、1勝1敗として本田五段は見事に東郷神社へのチケットをゲットした。

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「理想はコンピューター。目標とする棋士はいません」

 ここで再び二上九段の言葉を引用する。

<情報の流動化と過多状態は、棋才以外の別な能力を要求している。最新の情報を誰よりも早く手にし、しかも整理し自分のものにしておく。そこに才能即ち我々で言う棋才を発現させる部分は極めて少ないと言えそうだ。>(同)

羽生善治九段の師匠でもある二上達也九段。2016年に84歳で亡くなった ©文藝春秋

 人生経験が棋力に通じるとされた昭和。データが増えて情報の整理が重要視された平成。AIによる評価値という概念で将棋が数値化される令和。

 その時代において、棋才以外で必要とされる別の能力は変わってくる。いまの時代に必要とされるのは、コンピューターをうまく使いこなすこと。AIのはじき出す数値を咀嚼して自分の能力に加えること。

 これは棋才とは全く別の能力である。

 令和の時代を象徴するのは、豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠、藤井聡太七段といった面々だ。みな棋才にあふれ、ロジカルで頭の回転が早い。物事を合理的にとらえ、見栄や虚勢から程遠い。

「理想はコンピューター。人ではないです。目標とする棋士はいません」と断言する本田五段も、その路線にいることは間違いない。時代に乗っているのだ。

 さきほどの二上九段の言葉には続きがある。