<表面だけをとらえて、コピー人間、コピー将棋、無個性を表現するのは、どうやら間違いではないかに思える。豊富な情報の中から、自分に合ったものを選び出して行くのだから、むしろ個性、即ち棋風の多様化が図られているのではなかろうか。>(『将棋世界』1988年5月号)

 いまの世の中、いまの将棋界を表すように聞こえるが、これはなんと30年以上前に故二上達也九段によって語られた言葉だ。

 なんという先見の明だろうか。

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 二上九段は、現在では羽生善治九段の師匠として有名だ。棋士としては、全冠制覇中の大山康晴五冠から2度タイトルを奪った実績が光る。人望が厚く、将棋連盟の会長を14年務めたことでも知られている。

藤井猛、渡辺明、広瀬章人……新星たちには「必殺戦法」があった

――30年の時を経て、将棋AIの力もあり、情報は爆発的な増え方をしている。

 各戦法における定跡は莫大な量となり、プロ棋士であっても専門外の戦法については定跡についていけない状況だ。だからこそ、爆発的に増える情報の中から自分に合ったものを選び出して実戦に用いることが「棋風」となる。「棋風」は盤上ではなく、準備段階に現れるようになったのだ。

 彗星のごとく現れるスターは必殺ともいえる戦法を携えていた。

 1998年に藤井猛七段(肩書は全て当時)が谷川浩司竜王から4連勝で竜王を奪ったとき。2004年に20歳の渡辺明六段が森内俊之竜王から竜王を奪ったとき。2010年に現役大学生の広瀬章人六段が深浦康市王位から王位を奪ったとき。

 それぞれ、藤井システム、横歩取り8五飛戦法、四間飛車穴熊という武器を「棋風」とし、将棋界に革命を起こして新しいスターとなった。

「令和の新星」が語った「東郷神社に行きたい」

――いま、相掛かりという武器を携えて将棋界の頂点を目指す者がいる。

22歳の本田奎五段。2018年10月のプロデビューから1年余りでタイトル戦に登場した ©共同通信社

 それがデビューからまだ1年余りにして棋王戦でタイトル挑戦を決めた本田奎五段だ。