2019年の最後に、また将棋界で新たな記録が達成された。
12月27日に行われた第45期棋王戦挑戦者決定戦第2局、渡辺明棋王への挑戦権を争ったのは佐々木大地五段と本田奎四段。第1局で敗れていた本田が勝利して、見事挑戦権を獲得した。五段対四段の挑戦者決定戦は1992年5月の第60期棋聖戦、阿部隆五段対郷田真隆四段(段位は当時、郷田が勝って挑戦権獲得)以来、史上2例目となるが、特筆すべきは本田が棋王戦に参加したのはこの第45期が初めてだった点である。
「そろそろ名前を憶えてもらえたと思うので」
自身初参加の棋戦で挑戦者決定戦まで進んだ棋士は、1977年の第18期王位戦における小林健二、1990年の第57期棋聖戦における郷田、1994年の第7期竜王戦における行方尚史、2009年の第80期棋聖戦における稲葉陽、2014年の第55期王位戦における千田翔太の5名がいるが、いずれも挑戦権獲得には至らなかった。本田の快挙は史上初の例となる。タイトル挑戦権を獲得したことで、本田は12月27日付で五段昇段となった。
本田は挑戦権獲得後のインタビューで次のように語った。
「実感はまだありませんが、初参加で挑戦権を得られたのは運がよかったという気がします。実力はまだまだです」
渡辺棋王との対戦について聞かれると、こう答えた。
「渡辺棋王が強いのは当たり前ですが、序盤から引き離して勝っているという印象です。自分も序盤型なので、そこで離されたら厳しいですね。こちらのペースに持ち込めればと思います。そろそろ(自分の)名前を憶えてもらえたと思うので、番勝負でも注目いただけたら」
三段リーグでは弟弟子である斎藤明日斗に抜かれる
本田が宮田利男八段門下で奨励会入りしたのは2009年、小学6年の時だ。入会後はとんとん拍子に昇級、昇段を果たし、2015年4月の第57回三段リーグに初参加。リーグ入り当時は17歳で、これはまずまず速い出世といえるであろう。
だが、そこから四段昇段までは3年半を要した。その途中では史上最年少棋士の藤井聡太や、同門の弟弟子である斎藤明日斗に抜かれる屈辱も味わった。四段昇段時に行われたインタビューでは、斎藤に抜かれたことに関して「それまで王を持っていた相手に、研究会で玉を持つのがつらかった」と明かしている(※将棋には「玉将」と「王将」の駒があり、目上が「王将」を持つのが礼儀とされている)。