過日、文春オンラインの「観る将棋、読む将棋」で何か書いてほしいと依頼をいただいた。最初はインタビューや対談ものの新企画を考えたりもしたのだが、その線はすでに優秀なライター陣が見事な仕事をなさっている。そもそも私は生来からの隙間産業というか、他の人と違うことを率先してやりたがるタイプである。

 インタビュー以外で、さらに図面を使わずに有意義なものは何かないか。そこで思いついたのが、1週間の棋戦の動きをなんとなく把握できる、この週報とコラム形式の読み物だった。

現場にいなければ見ることができないシーンを知りたい

 私自身、2016年3月に週刊将棋が休刊になってから、継続的に棋界情報を得るツールに飢えていた。長年にわたって、なんとなく眺めていた週刊将棋。それとなく棋界の流れを把握した気になれる素敵な週刊将棋。日刊でもない、月刊でもない週刊将棋。失ってその存在の大きさに気づかされたよ、週刊将棋。

ADVERTISEMENT

©文藝春秋

 インターネット全盛の昨今、欲しい情報を取りに行くのは難しいことではない。SNSやまとめサイトは便利であるし、うまく活用している人もたくさんいるだろう。ところが私のような不精者は、情報の多さや便利さが逆に不便に感じられてしまうのである。

 クリック数を必要最低限に押さえながらも、棋界情報に精通した気になりたい。業界に携わっている人がこっそり教えてくれる棋士のちょっといい話や、現場にいなければ見ることができないシーンを知りたい。

 しかし、見渡してみてもそういう都合のよいものは見当たらない。ならば自分でやってみようか、というのがこの週報とコラムの骨子だった。

 書き始めてまず思ったのは、改めて棋戦情報を追っていくと、新たな発見がいくつもあるということ。そして正確な情報を伝えようとするのは想像以上に面倒くさい作業だということもわかった。それに比べると、コラムを書くことのなんと楽なことよ。

 なんやかんや、始めてしまったものは仕方ない。いろいろと微調整をしながらやってみようと思う。間違いなどもあるかもしれないが、やさしく指摘していただけると幸いである。

 なお棋戦情報や結果、各種のデータは公益社団法人であるところの日本将棋連盟公式サイト(https://www.shogi.or.jp/)を参考にさせていただいている。かのサイトに何かあった場合は当方も沈黙するはずなので、あらかじめご了承いただきたい。なお当方、大手からクレームが来たら即座に店じまいする決意を固めている。

 さて、退屈な前口上はこのくらいにして本題に入ろう。まあ本題といっても日々のなかで見た将棋や棋士などのことをつづっていくだけなので、目の端で流し読みするくらいの内容になると思う。

12月16日、月曜日。棋王戦の挑戦者決定戦へ

 午後3時頃に家を出て千駄ヶ谷の将棋会館に行く。この日は棋王戦の挑戦者決定戦があり、年末でもあるため終了後に打ち上げがてらの忘年会があるのだ。終局間近に来る剛の者もいるが、私はそれほど肝が据わっていない。さらに言えば将棋が見たい。

 控室になっている銀沙・飛燕の間に入ると、現棋王の渡辺明三冠が継ぎ盤の前に陣取っている。三冠の貫禄を消して余りあるのは、脇の袋から顔を出したぬいぐるみたち。この日に受けたスポニチの取材の際にプレゼントされた、「すみっコぐらし」のとんかつとえびふらいのしっぽだそうだ。

サンエックスのキャラクター「すみっコぐらし」のとんかつとえびふらいのしっぽ(すみっコぐらし公式Twitterより)