羽生善治ですら初挑戦までは4年近くかかった
本田が四段昇段を果たしたのは2018年10月。同年12月の対勝又清和六段戦が棋王戦における初戦となる。本田の棋王戦ドリームの始まりで、以降は挑戦者決定戦まで10連勝。その途上ではのちに二冠を獲得する永瀬拓矢、当時竜王だった広瀬章人などの強豪を打ち破っている。
挑戦者決定戦の第1局では佐々木に敗れたが、ここまで無敗で勝ち進んでいた本田は、挑戦者決定戦で1敗する余裕があった。対して敗者復活戦を勝ち上がった佐々木が挑戦権を獲得するには、挑決で2連勝が必要だった。棋王戦独自のシステムが明暗を分けた挑戦者決定戦だったと言えるかもしれない。
四段昇段から1年4ヵ月での挑戦権獲得(2020年2月1日の五番勝負第1局日時の時点で数える)は史上第2位の速さ。歴代1位は最年少挑戦記録を持つ屋敷伸之の1年2ヵ月である。羽生善治九段ですら初挑戦までは4年近くかかり、ここ10年程の記録でみても豊島将之竜王・名人の3年9ヵ月が最速である(2011年1月の第60期王将戦)ことを考えると、本田の驚異的な速さがわかる。
「今まで見てきた人間の中で五本の指に入ると思った」
本田の師匠である宮田利男は現在、三軒茶屋で将棋道場を開き、普及に当たっている。本田と斎藤の兄弟弟子も三軒茶屋将棋倶楽部で腕を磨いた。宮田は愛弟子について以下のように語る。
「キャラクター的には斎藤のほうに軽さがあるが、将棋は斎藤の方がしっかりしている。ただ本田にはその軽業師的な指し方に才能を感じた。将棋に子供っぽさがなかった」
本田が三軒茶屋将棋倶楽部の門をたたいたのは小学1年生の時だが、「その時点で、今まで見てきた人間の中で五本の指に入ると思った」という。
本田が挑戦者決定戦進出を果たした時点で、その相手は佐々木と広瀬の2人に絞られていた。本田の関係者は、実績を重視してか、広瀬が出てくることを恐れていたそうだが、宮田は「佐々木君のほうが気になっていた。本田とタイプが似ていて、それで格上だから」という。
本田と斎藤に加えて、佐々木も三軒茶屋で研究会を行っていた。「そこでの佐々木―本田戦は、佐々木君の6勝3敗という記録が出てきたんだ」と宮田は振り返る。
今回の挑戦について「もう少し地力をつけてからとも思ったが、コツコツというよりは一気に飛躍するタイプなので、そういう意味ではよかったのかもしれない」と語った。
挑戦権獲得が決まった直後に師匠にコメントを求めると、一言「思いっきり飲むぞ」と。翌日には三軒茶屋将棋倶楽部関係者の忘年会が予定されていた。師弟にとって、さぞかし嬉しい会だったに違いない。
写真=相崎修司