今年は年初から“第三次世界大戦の勃発か!?”と、波乱の幕開けとなった。1月3日、米軍がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害し、「イランの報復次第では大規模な軍事衝突に至るのでは?」と懸念された。ひとまず最悪な事態は避けられたが、依然、緊張状態は続いている。

 両国の対立は、今に始まったことではない。1979年のイラン革命とアメリカ大使館人質事件以来、40年も続いている。

 両国の対立について、西側メディアでは、ソレイマニ司令官暗殺で、いたずらに緊張を高めたトランプ政権を非難しつつも、「イラン=反西洋=反近代の過激な宗教国家=中東の不安定要因」という論調が主流だ。

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米軍に殺害されたソレイマニ司令官 ©getty

イラン革命は「近代化革命」だった

 こうした「イラン観」に真っ向から異を唱えているのが、仏の歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏である。

〈米国とイランとの間で緊張が高まっています。メディアでは、日々、米国のトランプ大統領やイランの最高指導者ハメネイ師の発言が報じられ、国際政治の専門家やジャーナリストがさまざまに論じています。

 しかし、そうした社会の表層で起きていることよりも、私は「識字率」や「出生率」など、社会のより深層で生じている変化を長期的スパンで捉える仏アナール学派に連なる歴史家です。この立場から、問題を分析してみたいと思います。

反イラン・親サウジのトランプ ©AFLO

 2006年、核開発などを理由に、米国が対イラン経済制裁を発動しましたが、当時は、過激な発言を繰り返す強硬派のアフマディネジャドが大統領で、欧米諸国との緊張がとくに高まりました。私がユセフ・クルバージュとの共著で『文明の接近』(※編集部注:「アラブの春を予言した書」として評価されている)を出したのは、そんな時期です。

 この本のテーマは、人口動態から見た「イスラム世界の近代化」です。通常は「イスラム」と「近代化」は両立しないと思われていますが、そうではありません。

 イラン革命は、「近代化に反する宗教革命」と見るのが一般的ですが、むしろ「近代化革命」と捉えるべきなのです。英国の清教徒革命も、神の名のもとに君主制を打倒した点で、イランの革命と同じです。また、単なる軍事クーデタとは異なり、いわば「下からの革命」で、その平等主義的な側面からして、イラン革命は、フランス革命やロシア革命の、いわば“いとこ”に当たると言えます〉