京都名物のひとつともいわれる「冬の底冷え」。キーンと足元から凍りつくような独特な寒さに冬の京都を実感したことがある人も多いだろう。しかし、今年の京都の冬は一味違った。記録的な暖冬だったのである。
もちろん初雪も観測史上もっとも遅く、まるで小春日和がずっと続くような冬となった。マンションの廊下でオーナーのおばちゃんに行き遭っても、寒さをいたわり合う型通りの時候の挨拶がどうにもしまらない。そもそも寒くないのだ。
「寒いのは寒いのでかなんけど、こんなけぬくかったら、なんや京都ちゃうみたいやわ」
過ごしやすいのはありがたいけれど、どうにも気味が悪い。京都の人々にとってこの冬はそんな冬だった。そして、気味が悪いのは妙な暖かさだけではない。京都から、人がいなくなったのである。
あれだけオーバーツーリズムだ、観光公害だ、と騒がれた繁華街、神社仏閣、そして観光スポットにも人はまばら。いつもならばスマホのカメラを構えたまま人の波が途切れるのをじっと待たなくてはいけないインスタ映えスポットも、さくさくシャッターを切ることができる。そして、決して多くはない観光客もほとんどがマスクをした日本人。
近年はあれだけ大挙して観光地を埋め尽くしていた外国人観光客、とくに中国人観光客の姿をほとんど見かけない。これがいま、世界を震撼させている新型コロナウイルスの感染拡大が京都にもたらした冬景色である。
感染拡大が観光産業に与えた影響
このように京都の景色を一変させた新型コロナウイルスの感染拡大であるが、中国において人から人への感染が認められ習近平国家主席が新型肺炎の制圧を指示したのは1月20日のことだった。つまり世界がその危機をはっきりと認識してからおよそ1か月あまりしか経っていないのである。
2月の初旬には早くも感染の規模、そして経済への影響が2003年のSARS流行を上回るとの観測が示され、中国はもとより各国のあらゆる種類の経済活動に深刻な影響を与えることになった。ここでは、我が国の観光、そして我が国を代表する観光都市である京都を取り巻く状況に与えた影響を中心に振り返ってみよう。