これに先駆けて11日から日本への渡航自粛を国民に呼びかけていた韓国保健当局に続き台湾当局が日本への渡航参考情報を「警戒」に引き上げるなど東アジアで始まっていた「訪日忌避」の動きが、さらに世界へと広がったタイミングといえるだろう。
この頃から国際社会に「日本は危険国である」という認識が共有されるようになった。京都の旅館という日本観光の最前線は、そんな国際社会の風向きの変化を敏感に察知したのかもしれない。
新型コロナ以前から、京都は変わり始めていた
このように新型コロナウイルスの感染拡大によって一変したかに見える観光都市・京都の風景であるが、じつは新型コロナウイルスの到達よりもずっと早く、「風向き」は変わりつつあったともいえる。その「風」は海の向こうからではなく、内側から吹き始めていた。
まずは「お宿バブル」の終焉。近年のインバウンド急増の需要を受けて2014年に460か所だった京都市の簡易宿所(ゲストハウスなど)は19年10月時点で3232か所にまで膨れ上がった。またホテルのオープンも「ラッシュ」といわれるほどの勢いで相次ぎ、京都の「お宿」間競争は激化。さらに観光振興による利益を地域に還元するための宿泊税の導入などもあり、京都簡易宿所連盟のアンケートではじつに81%の簡易宿所が2019年度の売り上げは18年度比でマイナスとなったと回答している。
一方、日々の暮らしを圧迫するオーバーツーリズムに憤る地域社会からの風当たりも厳しさを増していた。地元紙・京都新聞が1月に発表した読者調査結果では8割が「ホテル規制は必要」と答え、また同月に行われた世論調査では観光客数を「これ以上増やすべきでない」・「減らすべきだ」が6割を超えた。
このような京都の空気を受けて昨年11月に飛び出したのが、「地域と調和しない宿泊施設はお断り願いたい」という門川市長の「お宿お断り宣言」である。
京都市長選では「観光抑制」が争点に
実際には京都市ではこれからも帝国ホテルやエースホテルなど数々の高級ホテルのオープンが予定されている。しかしその一方で市行政は、全国でも例がないほど徹底した宿泊施設のバリアフリー基準の強化など、小規模な宿泊施設や条件の悪い宿泊施設の抑制へ向けた施策を打ち出し、増えすぎた宿の引き締めを断行しつつある。このため今後は廃業・撤退、または京都への進出を諦める事業者が多く出ると考えられていた。
そして年が明けて1月に告示された京都市長選をめぐっては当然のごとく観光公害が大きな争点のひとつとなり、候補者たちはそれぞれに「いかに観光を抑制するか」をアピールすることになった。
つまりこの冬の京都は、いちど立ち止まって観光のあり方を問い直し再編に取り掛かろうとする、そんな「曲がり角」にあったのである。そこにまるで追い打ちのように襲い掛かったのが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大という危機だったのだ。