郵便局と簡易保険は、長らく庶民の生活を支える重要なものであった。とりわけ高齢者には銀行よりも郵便局のほうがなじみ深いという人が多いだろう。

 そんな長年の信頼を根底から崩壊させる事態が、昨年から続いている。

 1月31日、日本郵政グループは、かんぽ生命保険の不正販売問題で不利益を受けた可能性のある契約者が新たに約6万人(件数にして約22万件)にのぼると発表した。

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 かんぽの不正販売は昨年6月に発覚し、これまで顧客約15万6000人分の契約(件数にして約18万3000件)を対象に内部調査が進められてきた。今回の判明分を加えると、調査対象の顧客は合計21万人を超すことになった。

頭を下げる(左から)日本郵便の衣川和秀社長、日本郵政の増田寛也社長、かんぽ生命の千田哲也社長 ©共同通信社

 これまでに明るみになった例を見ただけでも、新旧契約の保険料を故意に6カ月以上にわたって二重払いさせたケースなど、極めて悪質な事案が目立つ。しかも販売対象となった顧客は、高齢者が多い。

「特定事案」に含まれない不正事例が多数発覚

 不正発覚から半年以上が経つというのに、いったいなぜ、新たな不正の可能性のある事案が次々に出てきたのか?

 昨夏以降、かんぽが集中的な調査の対象としたのは、保険料の二重払いや無保険状態など、客観的にみて不利益が立証しやすい「特定事案」に限定されていた。

かんぽ生命本社 ©共同通信社

 だが、郵便局員が顧客に虚偽の説明をしていたり、高齢者の契約時に家族をあえて同席させなかったりしていたケースでは、その郵便局員が否認していれば、それ以上の追及は難しくなる。そんなこともあり、厳密な調査が行われていたとは言い難い状況があった。

 そもそも昨年来、メディアで報じられてきた不正事例の多くは、特定事案には含まれないものが中心だった。不正な保険営業は特定事案以外でも横行していた可能性が高かったのだ。