ネット上の翻訳ソフトは手軽に使えて重宝することは多い。ただし、簡易辞書代わりにはなっても、そのまま実用には使えない。現状では間違い外国語を量産するサービスといってもいい。だから、翻訳ソフトだけですませるのは、手抜きがすぎると言われても仕方がない。
かつての人気サブカル誌『宝島』で連載された「街のヘンなモノ!VOW(海外版)」という企画で、海外で見つけたTシャツや商品ロゴなどのおかしな日本語表記の宝庫とされたのがタイだった。いまでは日本でその逆バージョンがタイ人たちに発見され、日本も大いに笑われているのである。
曖昧な日本語の直訳では魅力が伝わらない
中国語やタイ語の学習者は、英語に比べれば圧倒的に少ない。だから、百歩譲って、相互のコミュニケーションに支障が生じるのも無理はないといえるかもしれない。では、せめて英語は問題なしといえるのだろうか。
オーストラリア出身のラジオDJで、サムライと日本の城が大好きというクリス・グレンさんは「正直なところ、観光地の英語の説明文などを読むと、まったくひどい。これでは外国人には伝わらない」と手厳しい。
名古屋在住の彼は『豪州人歴史愛好家、名城を行く』(宝島社 2015)という本の著者でもある。ときにサムライに扮して地元の観光PRに尽力することもある。
「外国人の視点」を理解することが第一歩
そんな彼は、正しい英語を使うのは当然のこととして、観光PRにとっていちばん大事なのは「外国人の視点」を理解することだという。
彼によると、日本人と外国人の視点で最も違うところはふたつある。
「まず日本に関する知識。当然のことだが、外国人の日本に関する知識量は日本人に比べれば雲泥の差。そのため、日本人の一般的な知識ベースで書かれた観光施設などの解説をそのまま英語に翻訳しただけでは通じないことが多々ある」
言われてみれば当然のことだが、日本人が知っていることを必ずしも外国人が知っているとは限らない。「そういう視点が多くの日本人から完全に抜け落ちている」と彼は言う。
「海外には、日本にサムライや忍者がいると思っている人が、子供でなくてもまだまだいるのです。日本の人たちは外国人をひと括りにしがちですが、多種多様です。教養や知識のある欧米人だけが外国客ではありません」
ふたつ目のポイントは、日本人的な表現の嗜好が招く問題だ。「一般に外国人は曖昧な表現を嫌う。ところが、日本の観光パンフレットを見ていて思うのは、日本人は曖昧な表現や美しい言葉を並べ、なんとなく良さげに体裁を整えるのが得意」という。
だが、それでは外国人には伝わらない。