日本を訪れる外国人観光客は、いまや年間3000万人を超え、街の景観のみならず、我々の社会のありようを変えつつある。訪日外国人の旅行消費額は年々増え、年間4兆5000億円超という観光庁の統計も出ているほどだ。訪日外国人の増加は国内にさまざまな経済効果をもたらすと考えられ、現在に至るまで数多くの誘客施策がとられている。

 しかし、外国人観光客の数的拡大はいいことづくめなのだろうか。観光公害やオーバーツーリズムという言葉を聞く機会も増えてきた。2020年、政府は訪日外国人数4000万人という目標を掲げていたが、今年は新型コロナウイルスの影響で壊滅的な打撃を受けそうだ。それでも、日本はこれからも観光客誘致を続けるべきなのか……。

 インバウンドについて考えを巡らせる手助けの一つとして、後編では『間違いだらけの日本のインバウンド』から、ラジオDJのかたわら観光客誘致に取り組むクリス・グレンさんが当事者として語る日本の観光PRの問題点を紹介する。

ADVERTISEMENT

◇◇◇

間違いだらけの外国語表示

©扶桑社

 もはや知らないではすまされないことも起きている。

 ここ数年、外国人向けに多言語化された案内表示やサインが全国で整備されてきた。ただし、地名を表記するだけならいいのだが、特定のメッセージや説明をテキスト化したとたんにボロが出て、間違いだらけの外国語が氾濫していることをご存知だろうか。その外国語は意味不明で相手に伝わっておらず、外国客の失笑を買っているのである。気がついていないのは、その表示やサインを発注した日本人だけであるというみっともないことが多発しているのだ。日本の多言語化への取り組みはまだ始まったばかりだが、そこに相当な弱みを抱えていることは認めなければならないようだ。

 なかでもここ数年、急激に増えた中国語表記に問題が多いことは、中国のネット上でも盛んに告発されている。これらの恥ずかしい表記が、2018年中国客だけで838万人、台湾や香港、東南アジアの華人まで含めると1500万人をはるかに超える中国語圏の観光客の脱力感を誘い、「日本人もかわいいところあるね」と好意的に解釈してもらえているうちはいいのだが、「このままではいろいろ支障が出るのではないか」と心配する日本在住の中国人もいる。

間違いだらけの日本のインバウンド』 ©扶桑社

 たとえば、高額なブランド品や宝飾品のコーナーで、間の抜けた中国語表示を目にすると、なかには品質を疑いたくなる人も出てくるのではないかという。確かに、それはごもっともな指摘である。最近では日本にも法外な料金で商品を売りつけ、ニセモノも平気で扱う「ブラック免税店」があることを中国メディアに指摘され、「日本の店は(中国とは違い)客を騙さない」という神話が揺らいでいる。笑いや脱力ではちょっとすまされないシーンであることは想像できる。

 おかしいのは中国語だけではない。タイ語も同じ状況にあるという。

 都内の大学院で学ぶタイ人留学生のジャムジュン・モンティチャーさんによると、最近、日本を訪れるタイ人観光客が増えたせいか、全国の量販店やドラッグストアでもタイ語の商品表示がよく見られるようになったという。

「タイ語がちょっとヘンなんです。たぶん、タイ語の翻訳ソフトを安易に使ったんじゃないか。それは間違いのもと」と彼女は苦笑する。