求められるのはストレートな表現
「どこがどういいのかはっきり伝えていない説明が圧倒的に多い。それを英語に翻訳しなければならないときには本当に困ります。そのまま逐語的に翻訳するだけでは、いったい何を言いたいのかわからない文章になりがちで、外国人にとってまったく魅力的ではなくなってしまう。もっと端的でストレートな表現で伝える必要があります」
グレンさんは2016年4月に立ち上げた名古屋城本丸御殿の英語版ウェブサイトの制作を担当した。「英語の文章の書き方もそうだが、色やビジュアル(写真)などの好みは国によって違うので、そういうことも意識してほしい」と力説する。
日本語の堪能な外国人が日本通とは限らない
「外国人の日本に関する知識ベースが日本人とは雲泥の差があることをみんな忘れている」とクリス・グレンさんは言う。
では、なぜ我々は忘れてしまうのか。考えられるひとつの理由は、自分の知っている日本語を話す外国人を基準にしがちだからではないか。テレビで日本語を話す外国人もそうだろう。彼らは長く日本に住み、日本語を習得しているので、知識ベースは限りなく日本人に近い人もいるかもしれない。だが、大半の日本を訪れる観光客は、まったく別である。最近では、海外にいながら日本の事情に詳しい外国人も増えている。彼らは子供の頃から日本のアニメやテレビ番組をネットで視聴していて、日本には一度も行ったことがないのに、日本語を話せるようになったという驚くべき人もけっこういる。
そのため、彼らが日本のことを、自分たちと同じように、「何でもわかっている」という錯覚に陥りがちなのかもしれない。確かに、彼らは日本のアニメやサブカルチャーについては詳しいけれど、日本で国政選挙が実施される意味や、三権分立がどう機能しているか、法と国民の関係など、中学校の教科書で学んではいても、あらためて日本人が口にしないような日本の社会を成り立たせている基本的な約束事をどれだけ知っているだろうか。
だが、それが理解できないと、いま日本で起きていることの本当の意味はわからない。日本に詳しく見える外国人たちも、多くの場合、そういう基本的な理解がストンと抜け落ちている。テレビの討論番組などで、中国から来た留学生やビジネスマンが、信じられないような発言をするのも、そのためなのだ。最近、気になるのは日本での香港デモに関する報道に憤慨する在日中国人が増えているという話である。彼らが受けた教育は日本とは異なるうえ、海外にいてもSNSで中国国内にいるのと変わらない情報環境を生きているところがある。だから、日本では当たり前と思われている人権侵害に対する認識が理解できないのである。日本語を話せることと日本社会を理解していることが別物というのはこういうことなのだ。