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 また、2017年7月刑法改正の附帯決議に基づき、最高裁では裁判官を対象に、性犯罪被害者の心理について、精神科医・被害者本人等による研修が行われている。こうした取り組みにより、裁判所の「経験則」が変化したことも理由となっているであろう。

事件があらわにする現行法の「エアポケット」

 岡崎準強制性交等事件は、現行法の「エアポケット」があらわになった事件と言えるだろう。

 たとえば、同事件において、被害者の年齢が19歳ではなく、17歳であったら、有罪立証にこのような苦労はしなくて済んだ。なぜなら、2017年7月の刑法改正により、監護者強制性交等罪が新設されて、「18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為又は性交等をした」者は、強制性交等罪と同様に処罰されることになったからである。

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 しかしながら、岡崎準強制性交等事件の被害者が18歳未満のころは、監護者強制性交等罪は法定されていなかった。遡及処罰は、憲法39条により禁止されている。この事件に監護者強制性交等罪を適用することはできなかったのである。

 また、検察は今回の裁判で訴因変更をしている。強制性交等罪には、被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行又は脅迫が必要であるが、この事件では性交当日には暴行脅迫がない。

 訴因変更の理由は分からないが、準強制性交等の訴因変更には、裁判所が事件における暴行脅迫が強制性交等罪の暴行脅迫要件を満たさないことを示唆し、検察が同罪名で起訴を続けることを諦め、訴因変更するケースが頻繁にある。今回の事件もそういったケースだった可能性がある。

名古屋地裁岡崎支部が出した「抗拒不能」の定義

 以上の事情から、準強制性交等罪は最後の手段だったのだが、前述のとおり、地裁は同罪を成立させる上で必要な「抗拒不能」の要件を満たしていない、と判断した。

 実は、準強制性交等罪の「抗拒不能」のうち、心理的抗拒不能の定義は、一義的に明確ではない。「抵抗することが著しく困難な状態」という定義をした文献が多いが、「抵抗することができない」とした文献もある。

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 そして、名古屋地裁岡崎支部は、「心理的抗拒不能とは、行為者と相手方との関係性や性交の際の状況等を総合的に考慮し、相手方において、性交を拒否するなど、性交を承諾・認容する以外の行為を期待することが著しく困難な心理状態にあると認められる場合を指すものと解される」と定義づけていた。

 これは、ほかの裁判例と比べても、非常に高いハードルであった。その背景にはこの事件特有の事情があったのではないかと推察するが、紙幅の関係で本文中からは割愛する(詳しく知りたい方は、文末の注を参照)。