昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2020/03/12

地裁「強い離人状態にまで陥っていたものとは判断できない」

 名古屋地裁岡崎支部は、準強制性交等罪は、「相手方が心神喪失又は抗拒不能の状態にあることに乗じて性交をした場合など、暴行または脅迫を手段とする場合と同程度に相手方の性的自由を侵害した場合に限って同罪の成立を認めている」と、判決理由で、基準を述べていた。

 その上で、「被害者が、本件性交時において、抗拒不能の裏付けとなるほどの強い離人状態(解離状態)にまで陥っていたものとは判断できない」と述べた。

 強い離人状態(解離状態)とは、心と身体の統合が失われた状態のことであり、身体を動かそうと思っても動かすことができない状態となる。地裁は、「身体を動かすことができる場合、被害者は抵抗し続けるであろう」という経験則を用いたと思われる。

 ちなみに、裁判における「経験則」とは、裁判所が事実認定をする際に使う、裁判所で積み重ねられてきた知見や、裁判官が考える「常識」などのことを指す(「経験則」についての詳しい解説はこちら)。特別の知識、経験によって初めて認識し得るような専門的知識を「経験則」とすることが必要な場合は、鑑定・専門家証人の証言によって「経験則」自体の立証をすることもある。

 岡崎準強制性交等事件では、地裁段階でも、長期の性的虐待の影響により、被害者が学習性無力の状態にあった旨の精神科医の鑑定が存在した。しかしながら、地裁判決を読むと、長期の性的虐待の影響が過小評価されているように思われた。

©iStock.com

高裁で逆転判決が出た理由

 高裁の判決理由をまだ読むことができていないが、報道で見る限り、控訴審で追加された証拠は、小西医師の証言だけである。今回、逆転有罪判決が下ったのは、この新証拠による可能性が高い。詳しく見てみよう。

 高裁では、精神科医の小西聖子医師が、被害者の心理状態について、3日以上かけて鑑定を行い、法廷で、鑑定証人となった。

 小西医師は、内閣府犯罪被害者等施策推進会議の委員、法務省法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の臨時委員などの政府委員を歴任し、性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ(第8回)でも、講演を行っている。

 小西医師は、長期にわたる性的虐待の影響によって、被害者が学習性無力の状態にあった旨の証言をしている。高裁は、この証言によって、地裁とは異なる「経験則」を用いて、「抗拒不能」であると認定した可能性が高い。

名古屋高裁前に集まったフラワーデモの関係者。「あなたの後ろにはこれだけの人がいるということを伝えたい」と口々に語った ©文藝春秋