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連載クローズアップ

「お客さんが席を立とうとしない。大成功です」台本が遅れても楽観的な井上ひさしの記憶

鵜山仁(演出家)――クローズアップ

 井上ひさし没後10年を迎える今年、氏の信頼厚かった鵜山さんは、2作品を演出する。

鵜山仁さん

「1987年、僕がこまつ座の芝居を初めて演出したのが『雪やこんこん』でした。戦後、傾きかけた大衆演劇一座の物語ですが、当時若かった僕は、女座長が団員を鼓舞するため、お婆さんに扮して言う“芝居みると、皺がのびる、腰がのびる、寿命がのびる”という台詞のようには、“芝居”を肯定的にとらえることが出来ませんでした。台本は遅れに遅れましたが、初日の幕が降りる時、拍手が鳴りやまなかった。僕の隣で井上さんが“お客さんが席を立とうとしない。大成功です”と嬉しそうにおっしゃっていて、なんて楽観的な人だろうと(笑)。僕は初日を遅らせてしまった責任のことで悩んでいましたから。でも初演から30年以上経ち、演劇の登場人物は、実際の人間よりも長生きだ、という実感があります。井上さんが亡くなっても、芝居の言葉は、新たな可能性を吸収しながら生き続ける。個人の命より長いスパンで“芝居の遺伝子”は継承される、という点に、微かに夢を託しつつ、実は今、楽しいんです」

 初演の市原悦子以来、名女優が演じてきた座長・中村梅子役に、還暦を迎えたばかりの熊谷真実が初挑戦する。

「経験豊かで、芝居のお客さんとの直の交流が身体に叩き込まれている役者さんだと思うので、爆発的な、収拾がつかないような“座長”をやっていただきたいです(笑)」

 太宰治を描き、井上さん自身がこよなく愛した『人間合格』は12年ぶりの上演だ。

「津島修治(太宰)役は、劇団EXILEの青柳翔さんです。若い世代の彼が、戦争に負け、社会主義の夢も破れた後、我々はどう生きたらいいのか、という問いが根底にあるこの作品を、どんな風に感じ取り演じていくのか、大いに興味があります」

うやまひとし/1953年、奈良県生まれ。こまつ座公演を3000舞台近く手掛ける。『ヘンリー六世』などシェイクスピア作品の演出も多い。

INFORMATION

『雪やこんこん』4月24日~5月8日/『人間合格』7月6日~23日
紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
問合せ・こまつ座 03(3862)5941
http://www.komatsuza.co.jp/

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