ダンスは異性という相方なしには成立しない。だから6年間男子校にいた僕も、あの子と必死に向かい合った。あんなに誰かを理解したいと思ったことはない。あんなに誰かに、自分を理解して欲しいと思ったこともない。対等の相手であり一番のライバル。そしてフロアに立てば、たった一人の味方。かくしてダンスの相手は異性というよりも、背中を預ける戦友(バディ)に近いものになっていく。美しい女性たちの練習後の足と、僕の足。そこから同じ異臭がしたとしても、幻滅などしない。仲間意識が強まるだけだ。そう、我々は等しくダンサーなのである。そのためだろう、プロダンサーの試合でも、男女の更衣室が同室ということがある。単に予算の都合かもしれないが。
髪、衣装、化粧……試合における「謎のルール」
さてこの競技ダンス部、体育会なので試合がある。
各大学から、ダンサーたちが集い、技術を競う。それはそれは優雅で華やか……でもない。初めて見た時、僕は絶対やりたくないと思った。
まず、髪をジェルでかちんかちんに固めなくてはならない。花を刺すと真っ直ぐ立つくらいにである。頭皮に悪そうなことこの上ないが、これは必須。「試合中に頭髪が揺れてはならない」と規約にも明記されているからだ。なぜそんなルールを作ったんだ。
さらに、試合用の衣装もなかなか奇抜である。簡単に言うと、女性はディズニープリンセスか、水着。男性は燕尾服か、全身タイツ。これをみんな、何十万円も出して買うのだ。僕も燕尾服を着ていたが、これが恐ろしく暑い。スーツを着るようなもので、汗だくになる。どうして正装して運動するのか? 何かが間違っている気がしてならない。
ついでに顔面を歌舞伎役者みたいにド派手に化粧する。さらに、ラテン系の種目に出る場合は、肌を黒くする。試合の前、お風呂から上がったら、セルフタンニングローションという液体を体に塗りたくるのだ。そのまま乾いて色が染みこむまで、ぼうっと全裸で立ち尽くす。凄く寒い。風邪を引きかねない。さらにこの液体、激しい異臭がするので鼻が曲がりそうになる。またこの間、物に触れてはならない。いや触ってもいいが、変な色と匂いがついてしまう。一度ついたら、なかなか取れない。まるで拷問じゃないか。こんなの、絶対やるもんか。
だが、やってしまうのである。ダンスにのめり込むと、段々と違和感がなくなるのである。