ダンスは、社会の縮図。そんな気がする
そして4年間があっという間に過ぎていく。ダンスのついでに大学生活。お父さんお母さん、学費をありがとうございました。ダンスがうまくなりました。
入部して間もない頃、初めてフォーメーションダンスを見た時の感動は忘れられない。
女性は赤と黒、「不思議の国のアリス」のトランプ兵のようなドレス。男性は黒シャツ黒ズボンに青いネクタイ。そっくりな出で立ちの8組16人が、音楽に合わせて一斉に動く。マスゲームのように、一直線になったかと思えば円を描き、一組ずつ目の前に出て回転したり、めまぐるしく隊列を入れ替えながら最後にはぴたりと揃う。先輩たちがまるで一つの生き物になったかのよう。今でも鮮やかに光景が蘇る。自分もこれをやりたい、と強く思った。
あの激動の世界を巣立って、10年が経つ。
すっかり社会人になった僕だが、ふと振り返ると、大事なことは全てダンスに教わったような気がする。夫婦生活の基本は、ダンスの基本、リード&フォローではないか。パートナーとの信頼関係に、男女問題を解決するヒントがあるのでは。読者に届く本の作り方は、審査員へのアピールに似ている。いい本と売れる本の違いについて考えるようなことを、試合のたびにしていなかったか。
ダンスは、社会の縮図。そんな気がするのである。
この感覚を何とか誰かに伝えたくて、僕はこれを書きました。「大船一太郎(おおふないちたろう)」という己の分身と共に、かつての仲間を訪ねながら辿り直した物語です。ちょっと長くて奇妙ですが、ダンス部、アツいんです。
二宮敦人/作家。1985年東京都生まれ。一橋大学競技ダンス部「一橋ALL」卒(学部は経済学部)。累計40万部を超える「最後の医者」シリーズ、累計20万部を超える『!』シリーズをはじめ、ミステリ、ホラーからライトSF、ノンフィクションまで著書多数。