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「競技ダンス」何がおもしろいの? 「大事なことは全てダンスに教わった」という小説家の主張

2020/03/18
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ダンスの勝ち負けは何で決まるのか?

 僕も背番号をつけた燕尾服を着て、赤いひらひらのドレスを着たパートナーと一緒に、踊った。化粧混じりの黒い汗と涙を流し、試合のたびに頭皮にダメージを蓄積させながらも、勝利の栄冠を夢見たのだ。

 ところが、ダンスの勝ち負けというのはよくわからない。

 ボールを籠に入れたら得点だとか、何回転したら何点だとか、明確な決まりがないのである。試合中の頭髪や、試合会場で穿く靴下の色には決まりがあるのに、どうなっているのだろう。

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 試合が始まると10組くらいが一斉に踊る。審査員はそれを見て、「誰が良かったか」順位づけしていくのだ。つまり主観である。どれだけ観客を感動させられるかの勝負。スポーツというより、アートみたいだ。

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「審査員と目が合ったら変顔するといいよ!」

 先輩に実際にもらったアドバイスはこんな感じ。

「とにかく歩幅! 大きく動けば、その分目立つ!」

「二人の情感を醸(かも)し出す、世界観を作ること。そこに審査員を惚れさせるの。入場時の視線、礼の手つき、一切手を抜いちゃだめ。指の爪の先まで意識を張り巡らせる。全身が見られている意識を持つ。そして何よりもまず、自分に自信を持つこと。自分を好きになること」

「体を柔らかく。頭と首と肩と胸と腹と腰と足を全部別々に動かすんだ。そもそも人体の構造とは……」

「音楽を取り込んで、体から放つの。楽器になるってこと。そうしてフロアと一つになって、場を支配する」

「審査員と目が合ったら変顔するといいよ!」

「可愛い女の子に露出の高いドレスを着せるか、背の高い美男子の首を伸ばす。それが手っ取り早いんじゃないかなあ」

「結局は勢いだから。俺は試合前日に陰毛を焼くようにしててな……お前も、やれ」

 よくわからない。しかし順位はつく。勝者のダンスははっきりと胸を打ち、負けた自分の踊りを録画で見ると、想像よりもずっとかっこ悪くて、納得できてしまう。だから悔しくなる。勝ちたくなる。深い沼に、はまってしまう。