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感染19人残留のナゾ 米国グランドプリンセスはダイヤモンドプリンセスの“失敗”から学んだか?

2020/03/14
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隔離中なのに「歩き回る自由」がある

 ある夫婦は、下船後、医療テントで、新型コロナの症状が出ていないか検査を受けた後、オークランド空港に送られ、チャーター機で隔離を受けるテキサス州サンアントニオのラックランド空軍基地に入った。この基地には、武漢から退避した米国民や「ダイヤモンド・プリンセス号」に乗船していた米国民も隔離されている。

 夫婦は基地での対応をこう投稿している。

「大きな米軍機用格納庫で、体温を測られ、書類手続きをし、14日間の隔離が始まったことを告げられた。今、隔離されるアパート(ラックランド・イン)にいるが、1ベッドルーム、1バスルームで、小さなキッチンがついており、リビングルームには椅子が2脚ある。体温が毎日2回測定される。外に出て歩くこともできるが、他の人とは近づくことはできない」

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 つまり、隔離中でも同じアパートに隔離されている他の乗客と一定の距離を保つ限りは、アパートの敷地内を歩き回る自由が与えられているのだ。

 この対応は大丈夫なのだろうか?

「ダイヤモンド・プリンセス号」でも、乗客は、一定時間、デッキに出ることが許され、他の乗客と一定の間隔を開ければ良しとされたが、アメリカのメディアからは、乗客がみなそれを遵守していたかは疑問だという指摘があがっていたからだ。

 また、カリフォルニア州のトラヴィス空軍基地内のアパートに隔離されている乗客は14日間の隔離に入ったが、「まだウイルス検査を受けることができていない」と不満を訴えている。

“感染している”乗員19人も船内に留まっている

 問題は他にも浮上している。

「グランド・プリンセス号」の場合、乗員は下船させず、船内で隔離されることになったが、感染がわかった19人の乗員もまた、他の1000人を超える乗員(多くがフィリピン人だという)とともに、船内隔離されることになったのだ。

©AFLO

 乗員と乗客を切り離す作戦に出たのは、乗客が、多くの部屋を行き来する乗員を通じて感染したと考えられている「ダイヤモンド・プリンセス号」から得た教訓と言えるかもしれないが、果たして、感染した乗員を乗船させたまま、船内隔離していいのか?

 感染している乗員も船内隔離する理由について、カーニバル社は「ウイルス検査で陽性だった19人の乗員は、無症状であるから」と話している。

 しかし、無症状の感染者も感染力を持っているとする研究報告もある。JAMA(ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション。米国医師会が発行する医学雑誌)に、無症状なため感染していると自覚していない武漢市在住の女性が、安陽市を訪ねた際に会った5人の親族にウイルスを感染させ、発症させたとする研究論文が掲載されているのだ。

再びの「ウイルス培養皿」問題

 また、乗員を船内隔離すること自体に問題はないのか? 「グランド・プリンセス号」が、「ダイヤモンド・プリンセス号」同様、アメリカのメディアが呼んでいたところの「ウイルス培養皿」と化す可能性はないのだろうか?

 専門家からは「クルーズ船は隔離病棟ではない」「症状を見せていない人は下船させる必要がある」「クルーズ船の環境を考えると、ウイルスが拡散するのは起こりうる事態だ」などの声もあがっている。

 サンフランシスコ〜メキシコ間の往復クルーズの後、下船した乗客12人の感染も確認され、州衛生当局はこのクルーズに参加した約1500人の乗客の健康観察を行なっている。

「グランド・プリンセス号」は「ダイヤモンド・プリンセス号」とは異なるアプローチを取ってはいるものの、その対応には疑問も感じられる。遅かれ早かれ、その結果は、感染者数や死者数という数字で出てくることになるかもしれない。

感染19人残留のナゾ 米国グランドプリンセスはダイヤモンドプリンセスの“失敗”から学んだか?

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