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小6女児を深夜に追い返す 神戸市の児童相談所はなぜ機能しなかったのか

「委託元である市が、福祉に対する専門性を軽視している」

2020/03/19

genre : ニュース, 社会

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委託を実施した市の責任は大きい

――委託相談員の男性は、女児の訴えを「冗談だと思った」と話していますが、夜間に子どもが助けを求めてやって来ることはあまりないのでしょうか。

「いえ、こういったケースはよくあります。おそらく今回のケースでは、委託先のNPO法人にその知識がなかったのではないでしょうか。児童福祉の実績がない団体ですから、受託業者としては適切ではありませんし、委託を実施した市の責任は大きいはずです。

 もし、実績のないNPOに委託するならばトレーニングは必須ですが、経緯を見るかぎりではそれすらしていないようです」

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女児が深夜に訪れたと思われる夜間・休日用インターフォン

――今後、同じような事態が起きることを防ぐには、どういったことが必要でしょうか。

「子どもの福祉を重要視するならば、正規職員を配置するなど、基本的には委託はしないことです。もしもやむを得ず委託するならば、専門のトレーニングをしている団体にのみ委託するなど、徹底した工夫が必要です。

 とにもかくにも、人員が足りていないことは看過できる問題ではありません。現在、児童福祉司は全国に3800人程度しかおらず、国際比較で必要だとされる2万人には遠く及びません。日本は公務員の比率も先進国で最も低く、これまで行政がいかに軽視されてきたかがわかります。

 今回の件については、児童相談所が悪いというよりも、市長ならびに、子どもの保護を軽視した予算体制を組んだ議会の責任です。

 今後、事件の責任の取り方として、市長及び議会の謝罪や処分が必要であることは当然だと考えられますが、もしも市が『ただ委託先に責任を負わせるだけ』になれば、また同じことをくりかえすでしょう」

神戸市こども家庭センター

浮き彫りになる「認識の甘さ」

 今回の対応で浮き彫りになった、行政による「福祉に対する専門性の軽視」。

 筆者は以前、子どもの保護・支援活動を行う団体を取材したときのことを思い出しました。

 児童福祉法の規定する「自立援助ホーム」を運営するこの団体は、児童相談所などで対応しきれないケースも含めて、行き場のない子どもたちの一時保護や支援をしています。しかしながら、団体を立ち上げるにあたって大きな壁となったのは「行政の理解」を得ることでした。その施設が「本当に必要なのかどうか」を理解してもらうまでに、膨大な時間や労力を要したといいます。

 保護される子どもの半数近くは児童相談所経由で、結果として「自立援助ホーム」が一時保護施設の役割を果たしています。行政は人員不足で対応しきれないだけでなく、子どもの受け入れ態勢が十分でない現状の認識が甘いと言わざるを得ません。