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「50歳の女性の顔なんて誰も見たくないから」

 “女子アナ”と呼ばれる女性アナウンサーの役割はいわゆる“職場の華”で、「50歳の女性の顔なんて誰も見たくないから」と言われてニュース番組を降板させられた先輩もいました。それでも当時、私は一度たりとも「女性役員がいないのはおかしい」とは思いませんでした。見たことがないので、イメージすらできなかったのです。

 現在では、国際的な専門家会議などで登壇者が男性ばかりだとManel(MaleばかりのPanelという造語)と批判され、ジェンダーバランスを改善するよう求められたり、出席を拒否されることもあると言います。かつて私も見慣れていた意思決定の場がManelだらけの日本の組織は、今や異常な光景なのです。

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 現在、イギリスのBBCでは、ジェンダー平等を実現するべく「50:50」というプロジェクトを進めています。2020年までに、制作スタッフおよび画面に登場する人を男女半々にしようという取り組みです。どんな場所でも女性が半数を占めるのが当たり前の光景を見慣れれば、人々の意識は変わります。他国のメディアにもこの動きが広がっていると言いますから、日本でもぜひやって欲しいものです。

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多様性に欠けるトップ集団は、非常時において脆弱

 先ほどのやる気のない発言の一方で、経団連は昨年、女性役員比率30%を目指すグローバルなキャンペーン「30%クラブジャパン」と覚書を締結しています。

 経団連のダイバーシティ推進委員長であるMS&ADインシュアランスグループホールディングス取締役社長グループCEOの柄澤康喜氏は、ジャーナリストの白河桃子さんとの対談(昭和の男社会が愛する「暗黙知」がある限り、日本はますます世界に取り残される)で「男性社会では、飲み会などでの“暗黙知”による以心伝心の関係がベースになっているが、それを言語化しなければならない環境にすることによって、新しいことが生まれやすくなる」と語っています。

 つまりは阿吽の呼吸で話が通じない相手に「察しろ、さもなくば黙っておれ」と言うのか、相手にわかりやすく説明するコストをかけるのかの違いですね。後者は生産性が向上するけれど、前者は自己完結していずれは淘汰されていくことになるのでしょう。

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 政府が打ち出すコロナウイルス対策を見ても、生活感覚のない似たような視点の持ち主が意思決定層に集中していると、市民生活の実態に合った適切な施策を打ち出せないことが露呈しています。多様性に欠けるトップ集団は、非常時において脆弱なのです。202030を達成できなかったツケがここにも表れていると見ることができるのではないでしょうか。

 今年2月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、ジェンダー平等の実現は世界の持続的な発展に不可欠であると語り、自らを誇り高きフェミニストだと宣言しました。これが、今求められているリーダー像なのです。幻の202030を、せめて202530に。本気の取り組みを望みます。