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京セラドームとライブハウスを愛するミュージシャンが言いたいこと

文春野球コラム2020 開幕延期を考える

2020/03/22

 プロ野球の開幕が延期と発表されて約1週間。開幕予定の時期や日程、開催方法等、未だ朧げではあるが色々なものが少しずつその姿を現し始めた。そしてやはりその頃からどうにもTwitterのタイムラインが、いや野球ファンが急に騒がしくなった。それも「開催時期や開催日程」の話ではなく、各球団とNPBが専門家チームの提言を受けてリリースした「開幕後の観戦方法」について多くの野球ファンが喰い付いた格好だ。ジェット風船、応援歌を使った応援、隣と肩を組んでの応援、大旗を振っての応援、ビールの売り子等々、しばらくの間はそれらの行為を禁止しての試合開催を検討しているとの発表に多くの野球ファンはこぞって疑問を唱え出した。それぞれが思う野球観戦と観戦文化が一気にタイムラインを埋めて行く。

 ただ少し考えて欲しい。「専門家」チームが専門的知識、見識、そして少ないながらもかき集めた科学的根拠を元に出した提言に、我々ど素人が「だったらこうした方が」とか「それならこんな方法で」と唱える事がそれほど必要な行為なのだろうか。

 このコラムは今話題の渦中に置かれた「ライブハウス」にも出入りするような、一野球ファンのミュージシャンが鳴らす警鐘として読んで頂ければ幸いである。

ライブハウス(※写真はイメージです) ©iStock

ライブハウスが実名を晒した訳

 まず断っておきたいのだが、今話題の大阪の「ライブハウス」はどこもさほど大きくはない。首相が中止や延期、規模の縮小を要請した「大規模イベント」等はとても開催出来ないキャパシティの会場である。そのような規模の各ライブハウスがコロナ感染の起因場所と報道された場合、大幅に客足が遠のく事が容易に想像され、場合によっては閉店や倒産に追い込まれる事だろう。それでも各ライブハウスは真摯に実名を明かし、COVID-19パニックに我を忘れた世の中にその名を名乗って出た。非常に勇気の要る決断だった事だろう。なぜ? それは自店以外のライブハウス、或いは日本の音楽文化を守る為だろう。言わば「うち以外のライブハウス、クラブは大丈夫ですよ。音楽シーンから足を遠のけないで」とメッセージを発したのだ。

「いやいや、競合他社を庇うような事を営利団体がするはずがない」とお思いの方も居るかとは思うが、音楽という共通の商品を扱う事業者は、得てして同業他社にもシンパシーを強く感じて業を営んでいるケースが多い。「野球人」がそうであるように「音楽人」もまた非常に強固な横のつながりを持つ人種なのだ。しかし残念ながら複数のライブハウスから感染者を出してしまう結果となり、今現在「感染予防の観点から非常に望ましくない場所」と言う烙印を押されてしまった形だ。言わば世の中から切り捨てられてしまったのだ。

 そしてそれは音楽業界、イベント業界に悲惨な状況をもたらした。世の中の「お前らのせいだからライブハウスの営業はしばらく見送って欲しい」と言うムードに逆らってイベントを開催した場合、もう自店だけの問題では済ませて貰えないだろう。イベントを開催すると言う本来当たり前の日常業務にも、異常に大きな勇気と決断を迫られてしまうようになったのだ。

 では野球界はどうだろうか。例えば京セラドームがクラスター発生の原因と判断された場合、それは京セラドームだけの問題だと世の中が判断してくれるだろうか。京セラドームの近隣に野球に興味がない住民が住んでいた場合、そこはウィルスを各地から持ち込む「第二のライブハウス」と認識されてしまいはしないだろうか。