思えばここ数年、オウム真理教の麻原彰晃(本名・松本智津夫)元死刑囚の三女や和歌山毒物カレー事件の林眞須美死刑囚の長男といった、死刑囚の子供による手記があいついで刊行されている。それら手記では、子供にしか知りえない事件当事
後者の手記『もう逃げない。――いままで黙っていた「家族」のこと』(ビジネス社)では、林眞須美の長男が母親の逮捕後、「殺人犯」の子供として世間から差別され、ときには暴力を振るわれたりもした過酷な体験がつづられている。『テセウスの船』でも、文吾の逮捕後、家族が悲惨な運命をたどる様子が丁寧に描かれてはいるが、手記の記述とくらべると、ドラマの描写はソフトに思えてしまう。ただ、親が子供にかける愛情など、事件が起きても変わらない家族の関係には、手記も『テセウスの船』も通底するものを感じる。
『テセウスの船』は、ミステリーやサスペンスの要素を盛り込みつつ、その主眼は家族の再生にこそある(その証拠に、主題歌「あなたがいることで」をBGMに各話の山場となるのはいつも、文吾や心の家族の絆が確認される場面だ)。再生の前提となる試練として、父親が凶悪事件の犯人になってしまうというのはこれ以上ない設定だろう。特殊な設定ではあるが、文吾の一家も事件前は普通の幸せな家族だ
和歌山毒物カレー事件、ロス疑惑……マスコミの反省
ドラマで加害者家族が題材にとりあげられる理由には、もうひとつ、メディア側の反省という意味合いもあるのではないか。『テセウスの船』の先週(3月15日)放送の第9話では、文吾が殺人犯だという疑惑が持ち上がるや、逮捕前にもかかわらず彼の自宅にマスコミが押しかける。その描写は、和歌山毒物カレー事件、あるいは1980年代のロス疑惑や豊田商事事件などで問題となったメディアスクラムを思い起こさせた。
容疑者の家族にマスコミが殺到する描写は、『テセウスの船』以前にもたびたびドラマで見た記憶がある。しかし、TBSはかつてオウム真理教をめぐりビデオ問題を起こした過去を
なぜ原作は北海道なのにドラマは宮城なのか
現実のできごととの関連でいえば、『テセウスの船』には東日本大震災を想起させる場面もあった。ドラマがスタートして以来、原作では北海道だった舞台がドラマでは宮城県に、無差別殺人事件の発生する時期も6月から3月に変更されているのが、筆者にはずっと疑問だった。