しかし3月1日放送の第7話を見て氷解した。この回では、ついに事件が起こるはずの前日を迎えるのだが、その日付が「3月11日」だったのだ。それは放送時期に合わせたというのもあるのだろう。しかし、この回での心の長ゼリフには、やはり震災を想起せざるをえなかった。それは、家族が事件に巻き込まれないよう、文吾が妻と子供たちに今夜中に村を出るよう強引に準備を促したために喧嘩となってしまった場面でのこと。心は大声で「やめてください!」と制止し、みんなを落ち着かせたところでこんなことを語ったのだ。
「俺の家族は、あることが原因でバラバラになりました」
「だから俺、この家がすっごくうらやましいです。みんなでプロレスしたり、バカ言い合ったり、わいわいごはん食べたり。でも、これって、当たり前のことじゃないんです。ある日突然壊れてしまうこともあるんです」
「だから家族一緒に笑っていられるって、すごく幸せなことなんです」
家族が話したり食事をしたりといった日常はけっして当たり前ではなく、ある日突然壊れてしまうことがあるとは、やはり震災を念頭に書かれたセリフとしか思えない。となると、3月11日という日付も、単なる偶然ではなく、やはり意識的に設定したものと考えるべきではないだろうか。舞台が宮城県になったのも、震災の被災地を意識しての変更のよう
「平成」という時代を振り返る貴重なドラマ
このほか、『テセウスの船』では、「24時間戦えますか」のCMソングや、ワープロ、使い捨てカメラ(レンズ付きフィルム)など、平成が始まったころに流行ったものもたびたび登場した。先にあげた現実の事件や震災を想起させる描写といい、ドラマ全体を通して平成という時代を回顧する趣向が凝らされている。文吾が殺人犯とされて以来、彼と家族から幸せな生活が奪われた3
新型コロナウイルスの流行で沈滞する現在の状況は、ちょうど1年