昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2020/03/22

 しかし3月1日放送の第7話を見て氷解した。この回では、ついに事件が起こるはずの前日を迎えるのだが、その日付が「3月11日」だったのだ。それは放送時期に合わせたというのもあるのだろう。しかし、この回での心の長ゼリフには、やはり震災を想起せざるをえなかった。それは、家族が事件に巻き込まれないよう、文吾が妻と子供たちに今夜中に村を出るよう強引に準備を促したために喧嘩となってしまった場面でのこと。心は大声で「やめてください!」と制止し、みんなを落ち着かせたところでこんなことを語ったのだ。

「俺の家族は、あることが原因でバラバラになりました」
「だから俺、この家がすっごくうらやましいです。みんなでプロレスしたり、バカ言い合ったり、わいわいごはん食べたり。でも、これって、当たり前のことじゃないんです。ある日突然壊れてしまうこともあるんです」
「だから家族一緒に笑っていられるって、すごく幸せなことなんです」

 家族が話したり食事をしたりといった日常はけっして当たり前ではなく、ある日突然壊れてしまうことがあるとは、やはり震災を念頭に書かれたセリフとしか思えない。となると、3月11日という日付も、単なる偶然ではなく、やはり意識的に設定したものと考えるべきではないだろうか。舞台が宮城県になったのも、震災の被災地を意識しての変更のように思う。

原作は漫画『テセウスの船』(講談社)

「平成」という時代を振り返る貴重なドラマ

 このほか、『テセウスの船』では、「24時間戦えますか」のCMソングや、ワープロ、使い捨てカメラ(レンズ付きフィルム)など、平成が始まったころに流行ったものもたびたび登場した。先にあげた現実の事件や震災を想起させる描写といい、ドラマ全体を通して平成という時代を回顧する趣向が凝らされている。文吾が殺人犯とされて以来、彼と家族から幸せな生活が奪われた31年間はそのまま、日本人にとっての平成――「失われた30年」とも呼ばれるあの時代の“重み”を示唆しているのではないだろうか。

 新型コロナウイルスの流行で沈滞する現在の状況は、ちょうど1年前、改元を前に日本中がお祭りムードに包まれていたのがまるで嘘のように思わせる。お祭り騒ぎのほとぼりが冷めたいまだからこそ、あらためて平成の時代をドラマという形で振り返る『テセウスの船』は貴重だ。

プロ野球「ロッテ対楽天」始球式に登場した竹内涼真。右は女優の土屋太鳳(2016年撮影)

この記事の写真(5枚)

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー