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強烈に記憶に残っているダルビッシュと内川の対決

 また、あれは日本ハムとの練習試合で、先発はダルビッシュ有だった。

 現名称でいうPayPayドームの記者席はネット裏の最上段にある。しかし、アナウンス部屋はグラウンドレベルだ。いつもと違う角度、近さから見たダルビッシュのボールはド迫力だった。

 その試合の記録は、やはり残されていない。さらに自分の記憶もあいまいだ。昔の資料や記事などを一生懸命探して、ようやく試合の詳細をつかむことができた。

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 この年が日本ラストイヤーと目されていた(実際翌年からメジャーでプレー)ダルビッシュは春先から絶好調だった。キャンプから実戦16イニング無失点を続けていた無双の右腕相手に、立ち上がりはホークス打線が襲い掛かった。初回2アウトから内川聖一が粘って四球で出塁すると、松中信彦、小久保、多村仁志が3連打を放って2点を奪った。しかし、2回以降は散発2安打に抑えられ、7回で11三振を喫した。それでも試合はホークスが3対2でどうにか勝利した。

 記録のない試合だが、記憶には強烈に残っているワンシーンがある。

 5回裏1アウト。ダルビッシュと内川の対決が、この日の最高の見せ場だった。内川はこの年ホークスに移ってきたばかりで、ダルビッシュとはこの日が初対戦だった。フルカウントからの勝負球。148キロが内角をえぐるように、そして浮き上がるような軌道で襲い掛かってきた。ワンシームという“魔球”だった。グシャッという鈍い音が無観客のドームに響いた。バットが砕け散り、ボテボテの三塁ゴロに打ち取られたのだった。

 のちに、内川にインタビューをした際、このシーンを述懐してくれた。

「勘弁してくれ、と思いましたよ。セ・リーグでやっていた時はどうすれば自分が崩されないようにバッティングできるかなって思ってました。自分の形でバッティングができるかがテーマだったんです。でも、パ・リーグは力でねじ伏せてやろうと思って投げてくるピッチャーがいる。ダルがまさにそうでした。『意識して折りました』って次の日の新聞で見させてもらったし。じゃあ、こっちも意識して打ってやんねぇといけねぇなってね。ただね、なんかちょっとワクワクする感じにはなってますけどね」

 パの洗礼を浴びせられた内川は、移籍初年度からホークスの中心打者として猛威を振るった。打率.338で史上2人目の両リーグ首位打者を獲得。「初回に内川がタイムリーを打てば負けない」という不敗神話を確立させたり、併殺を打たない内川(この年は3つだけ)という異名をとったりもした。練習試合での衝撃と奮起が内川の原動力となった。記録に残らない1試合が、運命を変えたのかもしれない。

球界全体の底上げになるかもしれない

 今年の練習試合だって、未来に語り継がれるようなシーンが突如起きるかもしれない。だから、たとえ公式戦でなくともついつい試合に見入ってしまう。

 また、選手起用も公式戦とは変わってくる。20日のPayPayドームでは、当初の日程で組まれていたとおりソフトバンク対ロッテがデーゲームで行われた。ソフトバンクは来日2年目のカーター・スチュワート・ジュニア投手が先発した。おととしの米大リーグのドラフトでアトランタ・ブレーブスから1位指名(全体8位)を受けながら入団合意せずに、翌年にソフトバンク入りする前代未聞のルートで来日した右腕は、超プロスペクトとして期待を集める存在である。その有望株は5回3安打1失点と好投した。5四球を与えたのは課題だが、最速154キロのストレートと独特な130キロ台のカーブにはロッテ打者陣も驚きの表情を見せていた。ただ、工藤公康監督が「まずは体を強く、故障をしにくいように鍛えることも必要」と示すようにまだ育成段階だ。本来、この日の栄光のマウンドに上がるはずだったのは東浜巨だった。

 一方のロッテも開幕投手が決定していた美馬学が福岡遠征に帯同せず、習志野高校から入団して2年目の古谷拓郎が先発した。昨年、イースタンの試合に顔を出した際に大隣憲司2軍投手コーチや金澤岳2軍バッテリーコーチから「良い投手ですよ」とおススメされたのを覚えていたので注目していた右腕は、140キロ台後半の直球をコンスタントに投げて制球もまとまっていた。こちらも将来有望だ。

 公式戦でなく練習試合となり、このように若手が1軍クラスで勝負ができる機会となった。球界全体の底上げになるかもしれないし、未来のスター候補生が躍動する姿を見るのは楽しいものだ。

 先日のコラムでも記したが、下を向いたり愚痴を言ったりしても、事が好転するわけではない。前を向こう。せっかくのプロ野球を楽しもう。球場に集まって、大声で騒げる日は、必ずやってくる。

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