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公式記録が残らない練習試合 “強烈な記憶”を残したダルと内川、2011年の勝負

文春野球コラム2020 開幕延期を考える

2020/03/24
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 桜が咲き始めた。しかし、プロ野球には、春がまだ訪れない。

 今シーズンが開幕するはずだった3月20日からは引き続き無観客で練習試合が行われている。(※……23日にプロ野球は開幕再延期が決定。4月24日開幕の目標までずれ込み、練習試合もいったん中断となる〈パ・リーグは24日から、セ・リーグは27日から〉。ただ、2軍は練習試合が引き続き行われる)選手たち、そしてチームはいつか必ず来る2020年のペナントレースに向けて準備を欠かさずに励んでいる。

 ともすれば、オープン戦の延長期間のような感じだ。しかし、オープン戦と練習試合には決定的な違いがある。

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 記録が、ない。

 数字を追いかけるのはプロ野球の醍醐味の一つだ。最初の数試合は目の前の「打った、打たない」でも楽しめるが、ある程度の試合数を重ねていくと「どれだけ打ったのか、抑えているのか」が気になって仕方なくなるはずだ。

 しかし、練習試合ではNPBから公式な記録が発信されない。

 プロ野球の試合には必ず「公式記録員」がいて、そのスコアが試合後に記者席などに配布される。公式スコアは新聞各社にも送られて、それに基づいて「打・安・点」などが表になる「テーブル」が作成されるのだ。

 今回の練習試合に関しては一部球団主催の試合を除いて公式記録員がいるものの(PayPayドームの試合には来られていました)、あくまで参考記録という扱いになっている。そのためテーブルはかなり簡略化された最低限の情報しか掲載されていない。

 ただ、スポーツ紙は自作したものをどうにか載せてくれているが、一般紙の方では担当記者に訊くとテーブルどころか「イニ・バテ」(得点スコアやバッテリーなど)も不掲載の方針だという。公式記録という記事化するための決定的な裏付けがないためだ。

「だから基本的に人物ものの記事はあっても、戦評はありません。記事の中に詳しい試合描写(球数や走者など)は出来るだけ書かないようにと指示されています」(一般紙記者)

3月20日、無観客のPayPayドームで行われたソフトバンク対ロッテ ©田尻耕太郎

思い出される9年前の「実戦形式の合同練習」

 そういえば、9年前の時もそうだった。

 2011年、東日本大震災の影響により開幕が延期された。この年は3月25日が当初の開幕予定日。パ・リーグが4月12日まで延期を打ち出したのに対して、セ・リーグは4日遅れの29日開幕を強行しようとして一時は世間から大きなバッシングを浴びた。結局は両リーグ横並びで4月12日にシーズン開幕を迎えたのだった。

 その間にチャリティーマッチも行われたが、「実戦形式の合同練習」との呼び名で無観客の練習試合も実施された。

 筆者はあのころ、ホークス球団と「ホークスオフィシャルメディア」の一員として現在とは少し違う形で契約をしていた。球団スタッフと同じ、ネーム入りのジャージを着て球場で取材をしていた。そんなこともあり当時の練習試合では手伝いを依頼された。

 それが公式記録の役割だった。スコアボードの「H」「E」「FC」のランプを点灯させる係だ。つまりキワドイ打球が飛んだら、自分がヒットなのかエラーなのか判断しなければならない。

 以前に2軍の練習試合で引き受けたことはあったが、1軍となるとあまりに恐れ多い。「もし、小久保(裕紀)さんに飛んだ打球をエラーって判断して、『えー!!』とか言われたら……」などと怖気づいてしまい適当な理由をつけて丁重にお断りをした。ならば、別の仕事を任された。うぐいす嬢の隣に座って、審判から伝えられる交代情報を伝達する役割だった。たしか、球審は良川さんだった。向こうも慣れないヤツがやっているなと最初はかなり近くまで来てくれて、丁寧に選手名を伝えてくれた。優しかったぞ、良川さん! ただ、コイツ慣れてきたなと途中で思ってもらえたのか、試合終盤の代打は指差し確認だけになっていた。

 今思えば、貴重な経験だった。

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