昨年の8月6日、広島原爆の日。私は広島市内で河井案里参院議員(46歳。広島選挙区選出、当選1回)と向き合った。リーガロイヤルホテル広島の6階に入る日本料理店で2時間にわたり、半月ほど前に投開票が行われた参院選で自民党現職を破るまでの経緯や、夫である河井克行衆院議員との夫婦関係について話を聞いたのだ。
そのインタビューから構成した拙稿は、週刊文春8月29日号(「『代議士の妻』が国会議員になる時」)に掲載された。
「新人議員なのにお金があるな」と思った
案里氏とは、その時が初対面。平和記念公園で朝から行われた祈念式典に克行氏と列席し、その足で私が待つ部屋に一人でやってきた。窓からは、市街地を取り囲むなだらかな山々が見えたことをよく覚えている。
私は、なぜかその日食べた懐石料理の御品書きも手元に残している。私のようなフリーライターにとって、高級料理にありつける機会は少ない。その御代は週刊文春が払った。
私が政治家を取材する場合、取材対象者の事務所で会うことが多い。食事をしながらであっても、高い店を使うことはない。 だが、案里氏は秘書を介して、その料理店を指定してきた。「新人議員なのにお金があるな」と思った。事前に携帯電話でやりとりした秘書の名は、立道浩氏。3月24日、広島地検に公選法違反(運動員買収)の罪で起訴された案里氏の公設第二秘書である。
悪名高い人物ほどこの目で見てみたい
私は案里氏に会う前、広島市内で複数の政界関係者に取材したが、みな彼女の悪評を語った。「嘘つきだから気をつけろ」という話から「男が密室でサシで会うのはよした方がよい」と忠告する人までいた。
私は職業柄、悪名高い人物ほどこの目で見てみたいと思ってしまう。「なぜ疎んじられるのか」と気になってしまう。読者の中にも、今、毎日のようにテレビニュースで「疑惑の政治家」として映像が流され、秘書が起訴されても雲隠れを続ける女性がどんな人間なのか――を知りたい人もいるだろう。
「(岸田文雄氏や宮澤洋一氏ら広島県選出の世襲政治家たちとは違い)うちの場合は主人の苗字が『ブランド』じゃない。夫に対する彼らからの反発をどうやって乗り越えるかが県議時代からの私の政治的な課題でもありました」
案里氏は、当時このようなことを語っていた。
「河井案里」とは何者か。
半年前に行った単独取材のメモ(一部)をみなさんとシェアしたい。
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「河井案里はじゃじゃ馬だし、しょうがない」
常井 今回、参院選に出て自民党重鎮の溝手顕正さんを破って初当選して、夫婦で国会議員となった。夫が国会議員ということは、選挙上はよく働いたのか、それとも反発があったのか。
河井 あんまり関係なかったです。一つには、参院選の場合は主人の衆院広島3区より大きな選挙区ということがあるんでしょうね。それから、私はすでに4期も県会議員をやらせてもらった。2期目に途中で一度辞めて県知事選挙に出た時は、「夫婦に権力が集中する」みたいに言われたんですよ。だけど、今回は「まあ、河井案里はじゃじゃ馬だし、しょうがないんじゃない?」みたいな(笑)。