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「人に思いを寄せること」ドラゴンズ・清水達也と丸山泰資が待つ“春”

文春野球コラム2020 開幕延期を考える

2020/03/29

 すぐに複数の病院で検査を受けた。しかし、エコーやMRIでは決定的な画像が現れなかった。

「投げる瞬間に神経を圧迫している可能性があると言う先生もいましたが、結局はどこで受診しても原因不明。何が起きているかは分からないみたいです」

 ノースロー、ネットスロー、キャッチボール、遠投、ブルペン。そして、痛みの再発。丸山はこれを何度も繰り返している。

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「傾斜で投げると、いつもと肘の角度やフィニッシュの力の入れ具合が変わるのか、ブルペンが大きな壁なんです。寝る前に願うこともありますよ。朝になったら、治っていてくれって。でも、起きたら、やっぱり痛い」

 返す言葉に詰まった。

「でも、心は折れていません。いつも声を掛けてくれる人がいるんです」

 肘の状態はもちろん、体調や気持ちなど、会うたびに必ず会話をしてくれる人がいる。

「浅尾(拓也)さんには感謝しています。お陰で今やれることをしっかりやれています」

リハビリと再発を繰り返すと……「気がおかしくなるんです」

 後日、浅尾コーチに聞いた。

「マルがそんなこと言ってたんですか。嬉しいですね。ただ、僕は元気付けるためというより、今の状態をきちんと把握したいから話しかけているんです。リハビリ組は別メニューなので、全ての練習を見られません。『40mの遠投をした』という報告書は目にしていますが、これが完璧な40mなのか、微妙な40mなのかまでは分からない。だから、顔を見るんです。選手ってやはり表情や話し方に今の調子が出るんですよ」

 現役時代はセットアッパーとして球団史上初の連覇に貢献。MVPに輝き、全国区の人気を誇った浅尾コーチ。ただ、彼も地獄を味わった一人だ。

「2016年は肩も肘もダメで、一度も1軍で投げられませんでした。リハビリをして、試合の登板直前まで行って再発。これを3、4回繰り返すと、気がおかしくなるんです」

 辛い経験は同じ立場の人への理解と優しさに変わる。

「応援してくれている人の顔が浮かぶんです。申し訳ないし、ふがいない。どんどん自己嫌悪になります。寝る前に『この投げ方だったら、痛くないかも』とひらめいて、急にシャドーピッチングをしたこともありました。良いイメージを膨らませると、今度は楽しみになり過ぎて寝付けない。結局、次の日にその投げ方をしても、痛いままなんですけどね」

 浅尾コーチには心残りがある。

「去年、リハビリ組の投手を復帰させてあげられなかったことです。僕はトレーナーでも医者でもないので、直接治すことはできません。でも、選手をもっと見ることはできる。現状を把握して、フォームの違いやズレに気付いて、聞かれたら何でも答えられるような、選手に利用してもらえるようなコーチになりたい。だから、まずは声を掛けるところからです」

 最後に小さくつぶやいた。

「いい薬ないですかね。飲めば、すぐ肘が治るような」

 丸山を思う浅尾コーチの表情は穏やかだった。その日も空は青かった。4月24日の開幕を目指すプロ野球。今はできることをするしかない。そして、人に思いを寄せよう。春は、まだか。

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