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“ギラギラ”バカ殿がいつの間にか“好々爺”に

 志村によれば、《とにかくキャラクターを大切にすること。徹底的に好きになること。そうすれば、ひとみばあさんはこういう喋り方をする、こんなことはしない、というのが自然とわかるようになるから。キャラクターが成長するし、厚みも出てくるんです》という(※7)。別のところではまた、《おばあさんのマッサージネタなんか、どんな人とやっても変わりますから、何回やってもおもしろいですね》と、同じキャラでコントを演じ続ける醍醐味を語っている(※8)。

 同じキャラでも、相手によってコントの内容が変わってくるのは当然として、志村自身が歳をとることで熟成されるところもあるだろう。バカ殿も、若いころはギラギラしていたのが、いまや家臣の役などで登場する若手芸人を温かく見守る好々爺のような雰囲気を感じさせる瞬間がある。

 自分がメインの番組以外、ドラマや映画に出演することはほとんどない志村だが、ここへ来て山田洋次監督の新作『キネマの神様』で菅田将暉とW主演を務めると発表された(今年12月公開予定)。映画出演は高倉健との共演が話題を呼んだ『鉄道員(ぽっぽや)』以来、21年ぶりということになる。「哀愁が好き」という志村が、人情喜劇を本領とする山田監督と組んで、果たしてどんな新たな姿を見せてくれるのだろうか。

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 すでに報じられているとおり、志村けんさんが新型コロナウイルス感染による肺炎のため、昨日、3月29日に亡くなられました。訃報を受けて、編集部からは、先月20日の70歳の誕生日に合わせて掲載した拙稿に加筆を依頼されたのですが、志村さんをテレビで見ながら育った筆者には思いのほか精神的なダメージが大きく(自分だけでなく、きっと多くのファンがそうだと思いますが)、正直、付け加えるべき言葉が見つかりません。いまはただ、こうして最小限のコメントを付すにとどめ、記事の再掲載をもって追悼とさせていただきます。

 記事中に引用した近年の発言からは、70歳を目前にしてなお衰えない笑いへの情熱が十分すぎるほど伝わってきただけに、残念でなりません。また、記事の終わりで紹介したとおり、今年に入って初の主演映画『キネマの神様』の制作が発表されながら、入院後に志村さん自ら出演を辞退、とうとう幻に終わってしまいました。おそらくご本人が一番無念だったのではないでしょうか。謹んでお悔やみ申し上げます。(2020年3月30日・近藤正高)

1998年撮影 ©文藝春秋

※1 『クレア』2018年6月号
※2 『AERA』1988年6月28日号
※3 志村けん『志村流』(マガジンハウス、2002年)
※4 志村けん『変なおじさん』(日経BP社、1998年)
※5 『週刊現代』2005年11月19日号
※6 『プレジデント』2006年4月17日号
※7 『ターザン』2018年7月12日号
※8 『週刊朝日』2001年6月15日号