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「ボチボチやるよ」 阪神・桑原謙太朗が再び目指す甲子園のマウンド

文春野球コラム2020 オープン戦

2020/04/03
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今年35歳を迎える男の覚悟と決意

 だが、見る者が心配になるほどのフル回転で身を粉にしてきた代償は、確実にあった。昨年は春季キャンプから右肘の不調に苦しむと開幕後も精彩を欠き、4月19日の巨人戦で6失点し2軍降格。以降、1度も実戦登板することなく、現在に至っている。一言で表すのなら「勤続疲労」。ただ、その裏には幾多の勝利に貢献できた充実感と、ひとたび1球で黒星を突きつけられる窮地での重圧との狭間で耐えてきた身と心がある。そんな苦闘が表面的に表れたのが右肘だったのだろう。

 2軍降格となっても、当然ながらシーズン中の再昇格に照準を定めていた。だが、状態は一進一退……いや本人の感覚としては“一進三退”ぐらいだったはずだ。キャッチボールを終えて、ブルペンに向かってもそこから痛みが出て投げられない。そんな日は数えるとキリがなかった。シーズン後半には一度、スローイングを封印。視線を20年に向けた。

 手術せず、痛みと付き合いながら復活を目指す道を進む姿には今年35歳を迎える男の覚悟と決意がにじむ。肘の負担を考え、投球フォームも冬から模索を続けてきた。「昨年、投げてないから。立場としてはまた競争で勝っていかないといけない」。あの躍動感溢れる投球フォームも、実績も、過去にすがるつもりはない。新たな桑原謙太朗を作り上げ勝負を挑むからこそ、気持ちは切れない。

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 どれだけ、腕を振ってもマウンドが遠のいていった日々。急ぐことが回り道になることは、身をもって感じた。だから、何気ない「ボチボチ」に込められた意味は深くて重い。一歩、一歩を踏みしめながら、クワさんは甲子園のマウンドを目指す。

チャリコ遠藤(スポーツニッポン)

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