3度の結婚と2度の離婚、息子・佐藤浩市との別れ、そして世間を揺るがした太地喜和子との恋愛。老人を演じるため、30過ぎで9本の歯を抜いたという凄まじい役者としてのエピソードの数々——徹底して我が道を歩いた生涯をおった『三國連太郎、彷徨う魂へ』が刊行された。「僕が小学五年生のときに、家を出て行きました」犬猿の仲と噂されていた息子である佐藤浩市さんから見た父・三國連太郎の姿。
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自分以外に興味を示すのは、きわめて珍しかった三國
——三國連太郎と佐藤浩市は、共演作(『人間の約束(1986年)』、『美味しんぼ(1996年)』など、4作)も少なく、三國の奔放な振る舞いもあって「犬猿の仲」とされてきた。しかし、彼らは決して、巷間言われているような反目した間柄ではなかった。
三國は、佐藤の様子を気にしていた。唐突に、話を始めることもあった。とくに、出演作についてはよくした。
忌憚のない批評も少なくなかったが、三國が自分以外に興味を示すのは、きわめて珍しかった。
私見だが、三國連太郎は、とても不器用に佐藤浩市を愛していた。三國が心底から愛したのは、人生で佐藤だけなのではないか。
明らかな嫉妬……演者として分身だった
佐藤 どうなんでしょう。正しい言い方かどうかはわかりませんが、たぶん、演者として分身だったんでしょうね。
自分がある程度の年齢になったとき、いちばんいい状態で芝居をできる存在が身近にある。その存在に対するある種、不思議な錯覚というか。
だから、三國には、僕に安っぽいと言ったら語弊がありますが、そういう仕事を生業(なりわい)にしないでほしいという思いはあったと思います。
逆に、僕が「今、こうした仕事をしているんだけど面白いよ」と話すと嫉妬するんです。「ああ、そう」って聞いているんですが、明らかに嫉妬しているのがわかる。自分もそういうところで生きたいという思いが伝わってくる。
僕がふがいない仕事をすれば腹立たしいし、やりがいのある仕事をすれば羨ましい。自分の分身には、複雑な感情があるのだと思います。
役者なんて、嫉妬の塊ですよ。緒形拳さんと『魚影の群れ(1983年)』でご一緒したあと、何年かして撮影所ですれ違ったことがあるんです。緒形さんは、そのとき僕が撮っていた作品をご存じで、「面白そうなことやってるな、浩市」って、すれ違いざまに一言言われて。あの緒形拳でもそうなんですよ。
僕は、嫉妬が美しくない感情だとは一概には括れないと思っています。