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志村に「凄いことになってるんだもん!」

 最初は声に悲しみを滲ませていた麻美だが、志村に思いを馳せるうちに声が弾み、思い出し笑いも混じるようになっていった。

「舞台では『はや替え』といって、コントとコントの間で志村さんが舞台裏で素早くメイクをして、また出てくるという演出がありました。そこで突然、わざとちょこっと鼻毛を描いたりするんです。舞台上でのちょっとしたメイク、それも鼻毛ですから、最前列に座っていたとしてもお客さんは気づきません。だから明らかに、共演者を笑わせようと『かましに』きている(笑)。

 私との絡みの時にも、志村さんは本番中に突然鼻毛を2本描いてきたことがあって。その顔を見た私は、思わず笑いがこらえられなくなってしまい、つい顔に出てしまったんです。そのとき、『お前、何笑ってるんだよ!』って志村さんにツッコまれて。本番中にアドリブでツッコまれるのは初めてでしたが、咄嗟に『だって、鼻毛が凄いことになってるんだもん!』って返せたんです。

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 出会って1年が経つか、経たないかくらいの頃でしょうか。あの頃は食事会や打ち上げで私を笑わせようとボケてくださった志村さんに、緊張して何もツッコめなかったんです。でも志村さんは優しく、『ゆまちゃんは僕にもツッコミが出来るようになるといいね』なんて笑っていました。それから5年が経ってやっとツッコミができた。『あ、私もやっと、ちゃんとツッコんで、ツッコまれるような距離になれたんだな』と嬉しくなった瞬間でした」

雑誌の企画で対談した志村けんと麻美ゆま。酒を酌み交わしながら語り合った 提供:週刊大衆/撮影:中地拓也

 志村からの言葉ひとつひとつが、今の麻美を支えている。

「私は仕事で人前に出るとき、常に緊張するんです。初めての舞台のときも本番前からずっとあがっちゃって……。でもそんな時、志村さんが『人様に自分の芸を見せるときには緊張して当たり前なんだよ、だからそれでいいんだよ』と声をかけてくださったんです。あの一言で、そのあともどれだけ救われたかわかりません」

 客だけでなく、共演者までを楽しませていた志村。麻美は「志村さんの顔をいま思い浮かべても、いつもコロコロ表情を変えてみんなを笑わせていたから、同じ顔が浮かばない」と語る。そんな志村と最後に会ったのは、2月の古希の誕生会のときだという。

「2月にお会いしたときは、『最近、ジョギングやウォーキングをしてるんだ』と、日焼け気味のいい顔色でおっしゃっていました。むしろ身体の調子は良さそうで、周りの方々とも、いつものようにお話しされていたのを覚えています」

いま、志村に伝えたい言葉

 それだけに、志村の訃報は衝撃的だったのだろう。志村の逝去を知ったあとは頭が真っ白になり、いまだに現実感がないという。

「時間が経つにつれて、少しずつ喪失感や悲しみがあふれてきます。でも、テレビの追悼番組をみてもどこか不思議な感じ。もう会えないというさみしさや、胸にぽっかり穴が開いたような感じもあって、受け入れるにも気持ちが追いついていないというのが、正直なところです」

 麻美は声を震わせながらも、しっかりとした口調で締め括った。

「志村さんと共演した舞台は、子供からお年寄り、すべての方を笑いと感動に包んだ瞬間の連続でした。そんな瞬間に立ち会えたこと、志村さんと一緒の舞台に立てたことは、人生の誇りです。感謝してもしきれません。

 時間はかかるかも知れませんが、私も少しでも人を笑顔に出来るように頑張りたい。どうか、安らかに……。心からご冥福をお祈りしています」

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