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15年後の今思い出す、楽天イーグルス「仙台初試合」を見に行った日

文春野球コラム2020 オープン戦

2020/04/08
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やたらと豪華だった試合開始前

 仙台市内に入り、クルマを停めて中心部のアーケード街を歩いてみる。右も左も楽天カラー、クリムゾンレッドの旗がズラリと並んでいる。“頑張れ!東北楽天ゴールデンイーグルス”の文字に自然と胸が熱くなる。そのまま進むと仙台駅。ここにも大きなフラッグが掲げられ、真新しいイーグルスのオフィシャルショップには人だかりができていた。球場に向かおうと東口に出たら地元の太鼓団体だろうか。ドンカドンカドンカドンカと勇壮に太鼓を打ち鳴らす。いよいよだ。この宮城野通をまっすぐ行けば県営宮城球場、もとい、新生・フルキャストスタジアム宮城に着く。

 球場のある宮城野原までは仙台駅から15分ほどの道のり。ふと我に返ると風が突き刺すように冷たい。ビルの気温計を見るとプラス2度。4月に入ったとはいえ、横浜の感覚からすると仙台はまだ冬だ。昼間でこれならナイターは下手すりゃ氷点下。……でも、いきなり北国らしい環境で野球が観られるなんて最高じゃないか。

 新球場はかつての薄白く煤けた宮城球場から面目を一新していた。この時点での収容人員は2万人。外野席のゲートを潜り抜けたら、青々と真新しい人工芝が内外野に敷き詰められている。既に満員のスタンドは全面クリムゾンレッド。皆、入場時に配布された河北新報提供のポンチョを着用しているのだ。僕らもそれに倣ってポンチョを着込み、対西武戦の試合開始を待つ。

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 僕らの座る外野芝生席の隣にはモーニング娘。のファン(ヲタ)が数人いた。やがてメンバーがグラウンドに飛び出し、イーグルスの公式応援歌『THE マンパワー!!!』を披露した。この2週間後にフライデーされて娘。を脱退する矢口真里もいたはずだ。ファン(ヲタ)は一緒に踊り、歌い終えるとそそくさと帰っていった。仮に野球に興味なくても、この歴史的な試合は観た方がいいと思うぜ。その後も堀内孝雄と香西かおりの国歌斉唱、YOSHIKIと三木谷オーナーによる始球式と、本番の前にやたらと豪華なものを見せてもらった。

スタンドは「これから日常にプロ野球がある喜び」に満ち溢れていた

 18時10分、いよいよ試合開始。千葉での開幕戦に続いて地元開幕戦でもマウンドに立ったのはエース岩隈だ。岩隈がストライクを、アウトを1つ取る度に地鳴りのような歓声が沸き起こる。そしてその裏、開幕以来ノーヒットの先頭打者、礒部がいきなりセンターバックスクリーン横にホームランを叩き込む。球場中がもう優勝したようなお祭り騒ぎだ。その後も4番ロペスの3ランなど、イーグルスは打つわ打つわの16得点。そこには2019年に監督を務めた球団初の新人選手、平石洋介のプロ初打点も含まれている。

 日が暮れて気温はどんどん下がり、僕らの身体は芯からキンキンに冷えていく。仙台で春先に野球を観るにはスキー場レベルの寒さも覚悟する必要があるのか。目の前でレフトの守備につく西武の和田ベンちゃんは右手をずっと尻のポケットに突っ込んでいた。暖をとるべく売店にコーヒーを買いに行くが、冷たいビールしか売っていない。でも、仙台のファンは「やっぱり野球観戦にはビールだべ」と喜んで生ビールを買っていくのだ。スタンドはみんなニコニコしながら、覚えたての選手名を叫び、プロ野球を楽しんでいる。その光景は「これから日常にプロ野球がある喜び」、「おらが町のチームがある誇り」に満ち溢れていた。

 あれからもう15年が経った。毎年、4月1日が来ると思い出すのはあの日の突き刺すような寒さと、スタンドの盛り上がりと、仙台の人たちの表情だ。現状ではいつになるか見当もつかない「プロ野球のある日常」のリスタート。でもその暁には、どの球場のスタンドも心からの笑顔に包まれているに違いない。そう、この日のフルキャストスタジアム宮城のように。

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