2008年の制度開始以来、全国の自治体への寄付額は増加を続け、2018年度には5100億円の寄付金が集まる巨大市場となった「ふるさと納税」。工夫次第で、人口わずか2000人程度の町であっても億円単位の寄付金を集めることができるのがこの制度の面白いところ。ふるさと納税が地方経済を活性化させていることは間違いない。その一方で、寄付額の増加に伴って返礼品の発送量が増えたことで、悲鳴を上げる自治体も出てきた。

 いま、ふるさと納税の現場で何が起こっているのか。ジャーナリストの大西康之氏が追った。

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 昨年6月、総務省は返礼品について「寄付金額の3割以下の地場産品に限る。送料・手数料などの諸経費を含めても5割まで」とする制度改正を行った。地元と無関係な高額の返礼品で巨額の寄付を集めた大阪府泉佐野市のようなケースを防ぐための措置だが、各自治体には大きな負担となってのしかかった。

 すでに高知県室戸市は北海道、沖縄、離島地域への返礼品の配送をやめる方針を打ち出した。遠方への配送料の高騰が原因だろう。

 だが、それでも室戸市のように返礼品を送ることができるのならばまだマシといえる。配送料の高騰によって、返礼品自体が「消滅」してしまった自治体があるのだ。

ふるさと納税で「税収の2割」を稼ぎ出したビール

 岩手県西和賀町――前岩手県知事で現日本郵政社長の増田寛也が座長を務めていた「日本創生会議」が、かつて「岩手県内で最も消滅の可能性が高い町」と名指しした町である。

 西和賀町の看板返礼品は「銀河高原ビール」だ。1996年に盛岡発祥の住宅メーカー、東日本ハウス(現日本ハウスホールディングス)の創業者、中村功が「これまで日本になかった本格的なクラフトビールを作ろう」と、旧沢内村(現西和賀町)に醸造所を建設し、生産を開始した。

ふるさと納税をPRする自治体職員ら ©時事通信社

 中村はビールの品質にとことんこだわり、1516年にドイツ・バイエルンの国王ヴィルヘルム4世が布告した「ビール純粋令」に倣い、原料はドイツ産の麦芽、ホップと西和賀の軟水しか使わない銀河高原ビールを生み出した。酵母をろ過しないため、麦芽由来のフルーティーな甘みがある。

 銀河高原ビールは一部のビール好きの間で熱烈に支持されていたが、ふるさと納税をきっかけにその人気が全国に広まった。税収が5億円弱の西和賀町にあって、2017年からは1億円を超える寄付金を集めてきた。つまり、税収の2割を銀河高原ビールが稼ぎ出しているわけだ。