だが、昨年12月、事態が暗転した。銀河高原ビールが「西和賀町にある醸造所を2020年3月で閉鎖する」と発表したのだ。今後は軽井沢に本社を置く親会社ヤッホーブルーイングの醸造所で銀河高原ビールの生産を続ける予定だが、それでは「西和賀産」ではなくなり、返礼品にすることはできない。
工場閉鎖の背景には配送料の高騰がある。銀河高原ビール社長の岡秀憲が苦しい胸の内を明かす。
「1本267円の缶ビールには77円の酒税がかかります。そもそも利益率が高くありません。さらに、輸送費が大きく上がったことで損益分岐点が上昇してしまった。チルド輸送をお願いしていた物流会社には、値上げどころか、『荷物を受けられない』と言われました。別の会社を探したのですが、これまでの2倍以上の輸送費を提示されたのです」
「返礼品を送れない」ケースが続出する?
工場閉鎖の決断はやむをえないものだったという。
「醸造設備の更新期にきていたこともあり、東京や大阪から離れた西和賀で醸造して輸送するビジネスは限界だと判断しました。銀河高原ビールのブランドを残すには、(大消費地の東京に近い軽井沢に醸造所を持つ)ヤッホー社に生産委託するしかなかった」
ふるさと納税の魅力は、都会のスーパーでは手に入らない「地方ならでは」の産品が手に入ることにある。だが、産地と寄付者を点で結ぶ「少量多品種」の物流は、明らかに効率が悪い。深刻な人手不足を考慮すれば、物流コストは今後も上昇し続けるだろう。総務省の「5割ルール」は形骸化しつつある。このままでは西和賀町や室戸市のように寄付を受けても、「返礼品を送れない」ケースが続出し、ふるさと納税の制度そのものが崩壊する恐れもある。
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「文藝春秋」4月号および「文藝春秋 電子版」に掲載した「『ふるさと納税争奪戦』が地方をつぶす」では、西和賀町以外にも北海道豊富町や遠別町などの現地取材を通じて、「ふるさと納税の光と影」に迫っている。
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「ふるさと納税争奪戦」が地方をつぶす