近日公開される予定の『フェアウェル』は、昨年の全米で新人監督の単館系映画とは思えぬ大ヒットを記録し、賞レースでも話題を呼んだ。

 物語は、中国系アメリカ人であるルル・ワン監督の実体験から生まれた。NYで暮らすビリーは、中国に住む祖母ナイナイがガンで余命3カ月と宣告されたと知る。だが祖母の親族はその事実を本人には隠し通すという。両親と共に祖母の家を訪ねたビリーは、「それが中国の文化」と言われても納得できない。映画は2カ国の文化的差異をテーマにしたコメディだが、各自の持つ痛みや悲しみを描くシリアスな家族ドラマでもある。

ルル・ワン監督 ©Photo by Miranda Penn Turinthe 2020 Film Independent Spirit Awards Nominee BrunchContour by Getty Images

「この出来事に通底する切なさのようなものを捉えることが何より重要でした。映画のジャンルにレッテルを貼る必要はないし、そもそも人生ってそういうものですよね。お葬式が必ず悲劇とは限らないし、結婚式が毎回幸せな喜劇になるわけじゃない。私が祖母の病気をめぐる体験をした時も、笑ったらいいのか泣いたらいいのか、わからなくなることが何度もありました」

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 ビリー役は『オーシャンズ8』等に出演したオークワフィナ。これまでの彼女とは違う抑えた演技にも驚かされる。

「多くのコメディアンが俳優として活躍できるのは、彼らの多くが痛みを抱えていて、自分を守るためにユーモアを駆使するからでしょう。オークワフィナも同じ。彼女の本名はノラ、4歳で母親を亡くし中国人の祖母に育てられました。ノラとしての経験や抱えた痛みが、ビリーと強く響きあったのだと思います。私は当初から『この映画にキャスティングしたのはノラ。オークワフィナは家に置いてきてね』と伝えていました」

 いつも猫背気味のビリーが愛らしかったと伝えると「あの姿勢に私は悩まされ続けたのに!」と笑ってくれた。

「何度『お願いだから背筋をまっすぐにして!』と言ってもすぐあの姿勢に戻っちゃうんです。でも結果的に、それがビリーのどこか可笑しみのある個性になったのかも」

 立場の異なる人々が多数登場するが、視点はあくまでアメリカ人であるビリーのもの。

「それは私自身がアメリカ人だから。白人よりは中国の文化を理解していると思うけど、現地に住む人々から見ればまだ理解不足のはず。でもそれこそ映画で伝えたいこと。人はみな全く別の見方をできる。大事なのは、人種よりも、どんな環境でどんな人たちに囲まれて育ったか。映画を見て、世界には自分とは違ういろんな視点があると感じてほしい」

 自伝的映画の次はどのような作品作りを続けていくのか。

「中国系アメリカ人の話に限らず、自分には馴染みがあるけれどこれまでメディアで目にする機会がなかった人物や物語に興味があります。中国人と日本人の両親を持つ人や、見た目はアジア人だけど生まれ育った国の言語しか話せない人とか。彼らの持つ意外性は人々を驚かせるけれど、私にとってはみなとても身近なキャラクター。そういう人々の物語を今後も掘り下げていきたいと思っています」

Lulu Wang/1983年に北京で生まれ、マイアミで育つ。ピアニストから映画監督に転身。長編2作目の『フェアウェル』が大きな話題を呼び『Variety』誌の「2019年に注目すべき監督10人」の1人に選ばれる。

INFORMATION

映画『フェアウェル』
(※近日公開。今後の予定は公式サイトにて)
http://farewell-movie.com/