アカデミー賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』を始め、いま韓国映画が人気だ。特に骨太な社会派ドラマに定評があるが、初夏より公開される『はちどり』は少々趣が異なる。舞台は1994年のソウル。14歳の少女ウニを主人公に、恋人や友人とのすれ違い、家族との軋轢が綴られる。
少女の揺れ動く感情を繊細に捉えたこの青春劇は国内外で大反響を呼んだ。監督は、1981年生まれの新鋭キム・ボラ。前作の短編でも主人公だったウニは監督の分身に思えるが、「自伝映画」という呼び名には慎重なようだ。
「みんなに『これはどこまで実体験なの?』と聞かれるんですが、私自身はあまりそこにこだわりたくないんです。たしかに自分の中学時代の経験や記憶をもとにした部分はたくさんありますが、その多くは、具体的な人物や出来事よりも感情の部分に反映されています。たとえばウニが抱く疎外感は私が中学の時に抱いていた感情そのもの。ただしそれは誰もが持つ普遍的な感情でもありますよね。
私も以前は映画には、より自分の要素を入れ込むべきだと考えていたけれど、今は私的な部分はなるべく減らしていこうと思っています。そうしないと作品がナルシスティックになってしまうから。『はちどり』が韓国で多くの観客を得られたのも、普遍性を何より大事にしたからだと思う。おかげで誰もがウニに共感し、94年以降に生まれた若者も、ときには男性でさえまるで自分の物語のように感じたと言ってくれました」
初の長編映画を完成させるまでの道のりは?
「芸術高校で演劇・映画を専攻し、ソウルの東国大学映画映像学科に進学、その後コロンビア大学院で映画について学びました。それにもかかわらず、自分が映画監督になれるとは考えてもいませんでした。女性が映画監督になるのは難しいと思い込んでいたんです。驚きますよね、20代からフェミニストとして活動してきたのに、自らガラスの天井を設けていたなんて。実際、女性で監督として活躍し続けられる人なんてほとんどいなかったんです。だから私も卒業後は大学で映画を教えていて、『はちどり』の後はまた大学の職に戻るつもりでした。でも今はもっともっと映画を作りたい。実際に長編映画を撮ったことで、映画への深い愛、そして自分の本当の夢に気づかされたんです」
韓国ではここ数年、女性監督の作品が少しずつ脚光を浴び始めたという。もちろん『はちどり』もそのひとつ。
「この10年くらい、男性監督が作る作品はどうしても似たような傾向に陥りがちだった。暴力を強調したり、女性の登場人物がいかにも道具として使われていたり。正直なところ観客の側も少々嫌気がさしていたのでは。近年の韓国のインディーズ映画で興行成績がよかったものの多くは、イ・オクソプ監督やユン・ガウン監督など女性作家の作品です。10年後には、女性だって監督になるのは当然だと思える、そんな時代が来るはずです」
Kim Bora/1981年に韓国で生まれる。2011年に9歳のウニを主人公にした短編『リコーダーのテスト』を発表。初長編『はちどり』はベルリン国際映画祭を始め世界各国の映画祭で50冠以上を獲得した。
INFORMATION
映画『はちどり』
※公開予定は公式サイトにて
https://animoproduce.co.jp/hachidori/